2026年3月18日号 12面 掲載
新しい診療報酬が強いる在宅医療の退化/医療法人社団 悠翔会 佐々木淳氏【連載第77回】

画一化した制度、地域性は無視?
「重症であっても自宅で最期まで診られること」
在宅医療に対する国からの非常にシンプルなメッセージ。令和6年度の診療報酬改定、評価の形が大きく変わる。ポイントは2つ。
①「大規模・高機能」在宅医療機関の大幅な診療報酬引き上げ
常勤換算3名以上、重症(難病・がん末期など別表8︱2該当者)が20%以上、年間30件以上の緊急往診と30件以上の看取り、加えて教育研修拠点として機能していることを条件に従来の「緩和ケア充実診療所加算」が「在宅医療充実体制加算」と名を変え、加算の全項目が2倍に引き上げられる。
②「低機能」在宅医療機関の大幅な診療報酬引き下げ
一方、重症の割合が少ないと(別表8-2に加え別表8-3該当者が20%未満)訪問回数に関係なく医学管理料は月1回分しか認められない。診療報酬は4割削減となる。とはいえこれだけ軽症者ばかり診るのは逆に難しい。①とは異なり要介護3以上、認知症中等度なども重症の定義に含むからだ。該当するクリニックは2割程度。
病床削減が進む中、在宅対応力を強化することで入院への依存度を下げたい。国の意図は明確だ。高齢者救急搬送の55%が軽症、一般急性期入院患者の67%が後期高齢者・34%が85歳以上という現状において「在宅で救急搬送を防ぐ・在宅で入院を防ぐ・在宅で最期まで看取れる」体制の構築は喫緊の課題だ。
「在宅医療充実体制加算」新設については悠翔会も要件を満たしうる拠点が多い。しかし、その要件には必ずしも合理的でない項目が含まれている。特に多職種連携とタスクシフト・タスクシェア、医師の働き方改革、そして医療の生産性の3つの面で明らかな逆行がある。強く再考を求めたい。
【1】常勤医師1名あたり実患者数100人の上限設定
これは特に非合理的な項目だ。手抜き診療や「荒稼ぎ」を防ぎたいという意図はよくわかる。しかしこの制限は、在宅医療を適切に提供する上で大きな障害になりうる。
●地域の在宅医療の総量規制につながる
特に医師確保困難地域(医療過疎地のみならず千葉県・埼玉県などの相対的医師不足地域含む)では在宅医の確保に難渋している。ニーズに応えようと努力して患者の受け入れを増やすことで加算要件から外されるのであれば、需要に敢えて応えないというネガティブな積極的選択が生じうる。
●患者のピッキングにつながる
重症比率が要件になると、重症に分類されない患者や、施設在宅医療の担い手の確保が難しくなる可能性がある。また要件として示された「重症」(別表8︱2)は、臨床的重症とは必ずしも一致しない。
●過剰診療が誘導される
実患者数に上限が設定されれば、その中で患者単価を上げようとするモチベーションが働く。必要以上の多数回訪問や必要度の低い検査や処置が実施されるなど、患者一人あたりの医療費が増加する可能性がある。
●多職種連携の流れに逆行する
医師はこれまで、多職種との連携強化で、患者一人あたりの関与量を減らす努力を促されてきたはずだ。しかし、患者数が制限されると、業務効率化の必要がなくなる。
総量制限の目的が診療の質の確保であれば制限すべきは「実患者数」ではなく「訪問件数」だ。患者の状態に応じて受け入れ患者数をフレキシブルに調整できる。訪問件数に上限を設けることで、過剰訪問のインセンティブが消える。むしろ、患者一人あたり、より少ない訪問で、より多くの患者を診られる体制づくりにシフトする。結果として患者一人あたりの診療単価は抑制され、これは医療費の抑制にもつながるはずだ。
【2】24時間対応における「主治医の対応義務」
在宅医療充実体制加算の前提条件が、機能強化型在宅療養支援診療所(病院)であること。しかし、この機能強化型の要件に「訪問診療として主治医を担当している医師が連続する24時間の対応をすること」という項目が追加された。もちろん、主治医なのだから毎日でなくてよいので夜間対応くらいはせよ、という意見があってもよいとは思う。しかしこれは施設基準だ。医師の負担軽減を追求しなければならない時代において、このような「根性論」が施設基準として実装されようとしていることに驚きを禁じ得ない。
厚労省の考える在宅医療の「充実体制」とは、医師の自己犠牲が前提なのか。本来目指すべきはシステム・インフラとして医師のライフワークバランスと持続可能性の確保の両立を目指すべきではないのか。
主治医の本来の機能は24時間対応を一人で担うことではない。主治医として関わるべき時間内に患者の安心と安全を守るための予防的・予測的ケアを提供し、時間外の急変を抑制することであるはずだ。もちろん予期せぬ急変が生じた場合、予測指示がうまく機能しない場合には24時間対応は必要だが、それはあくまで補完的なもの。連続した診療が提供されるのであれば、必ずしも主治医の対応でなくてもよいはずだ。
そもそも複数医師が勤務し、その中の一人が24時間対応する場合、緊急往診を担当するのは主治医とは限らない。主治医以外が対応するということであれば、それが昼間の診療を担当している常勤、または非常勤医師であっても、連続した診療が提供されるのであれば、患者の満足度もアウトカムも変わらないはずだ。
実際、悠翔会も立ち上げから6年間は私が一人で24時間対応していた。その後、常勤医師の分担担当としたが、当時は約800人の居宅患者、紹介患者の約半数が終末期がんの在宅緩和ケア目的。毎晩複数回のコールがあり、緊急往診のない夜は少なかった。「連続する24時間の勤務」が条件となっているが、常勤医には当直後の翌日も通常診療が待っている。連続する33時間以上の勤務となる。当然、翌日の診療にも、翌々日の診療にも支障が生じる。
だからこそ悠翔会は21診療所を展開する首都圏において、当直拠点を5ヵ所に集約、オンコールではなく非常勤医師を(診療アシスタントとともに)院内待機させ、迅速な緊急対応体制を確保するとともに、電子カルテによる情報共有、必要に応じて主治医と相談しながら、患者・家族にとって最適なケアを提供してきた。患者のコールから平均40分台で診療を開始できているが、これは東京都における救急要請から受診までの所要時間(平均55.5分)よりも短い。緊急対応の内容について88%の患者・家族が「非常に満足」「満足」と回答している。
今回の要件化を受けて、悠翔会でも昼間の主治医が33時間以上の連続勤務を週に1回以上求められることになる。時間をかけて作ってきたインフラに非合理的な「退化」を強いられることは容認しがたい。
厚労省は株式会社による安直な当直代行ビジネスが気に食わないのかもしれない。あるいは常勤3人であれば、一人が週2回程度の夜間オンコールで済むと安直に考えているのか。しかし、重要なのは「誰が緊急対応するか」ではなく「どのような緊急対応が行われているか」であるはずだ。それを捕捉するための指標は、例えば夜間の救急搬送や緊急入院の発生頻度と往診の実施比率などから合理的な基準が算出可能なはずだ。
在宅医療の質の指標に昭和の時代の精神論を持ち込むのはやめてほしい。
【3】常勤換算3人以上(うち常勤2人以上)
都市部においてはグループ診療が最適解かもしれない。しかし患者数の絶対数が少なく常勤医師を複数養えない地域も多く存在する。そのような地域において在宅医は患者を選べず、また24時間対応もおのずと一人で対応しなければならない。
3人で90人の看取りをするより、1人で30人の看取りをするほうが医師の負担は大きい。臨床的にも時間的にも距離的にもグループ診療よりも高いレベルの対応力が求められる。半径16キロ圏内の患者人口によって要件を満たすことが難しい医療機関への評価があるべきだ。
【4】小児在宅医療への配慮
常勤3人で重症に対応していれば看取り30人は容易なラインだ。しかし医療的ケア児の在宅療養支援は看取りを前提としないケースが多い。小児在宅医療は、その医療依存度の高さ、処置の頻度や資材の持ち出し、緊急対応の頻度のわりに看取りは少なくなる。超重症小児に対応している在支診については、看取りとは別の評価項目を設定すべきであろう。
いまパリの空港でこの原稿を書いている。
フランスの在宅医療・在宅入院、病院との連携、そして診療報酬の評価の仕組みを学びながら、日本のガラパゴスぶりを改めて強く感じる。
制度的にも内容的にも日本のほうが優れていると感じる点も多いが、インセンティブの設計はあまり上手でない。フランスでは現場のニーズから生まれた創意工夫が制度の中に組み込まれていくが、日本では多様な地域性すら無視した画一化が進む。そしてそこには進化とは到底言えないものも含まれる。
医療専門職が患者にとって最善のケアの提供に専念できる、必要な人に必要なケアが届く、医療機関も最適な評価がされる。
そんな制度設計を望みたい。

佐々木淳氏 医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長 1998年、筑波大学医学専門学群卒業。 三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。











