2026年5月6日号 6面 掲載
現場でホコリをかぶらない!ICTの選び方 選ばれる機器には共通項がある/日本総合研究所 城岡秀彦氏

第1回 なぜ介護テクノロジー機器が現場でホコリをかぶるのか
■「導入したのに使われない…」全国各地で繰り返されるリアルな失敗
「この機器、数年前に補助金で購入したけれど、結局ほとんど使われていないな…」皆さんの施設でも、そんな眠ったままの介護テクノロジー機器はありませんか?筆者は理学療法士として国内外の医療・介護現場を訪問してきました。その中で、導入後わずか数回しか使われず、倉庫の片隅で放置されている機器を数多く見てきました。
なぜ、このような「ホコリをかぶるテクノロジー」が生まれてしまうのでしょうか。最大の要因は、開発者が現場の実情を十分に把握しないまま「技術ありき」で製品開発を進め、事業者側も「補助金ありき」で導入してしまうことにあります。
たとえば、かつて注目を集めたパワースーツ。開発現場では「移乗動作がきついなら、パワースーツで力をサポートしよう」といった発想で商品化されましたが、着脱に十数分かかるため、多忙を極める介護現場ではほとんど使われていません。これは一例ですが、常にマルチタスクで業務が進む介護現場において、特定業務の効率化に偏った製品は現場の実態と合わず、結局使われないケースが多発しています。
現場目線を欠いた製品が補助金ありきで導入され、結局使われずにホコリをかぶる――これが、全国で繰り返されている介護テクノロジー導入失敗のリアルなのです。
■導入すべきテクノロジー――3つの分野
では、どのようなテクノロジー機器が現場で求められているのでしょうか。私が数ある現場を見てきた経験から言えるのは、いま介護現場で選ばれているテクノロジー機器には共通した特長があるということです。
それは、介護現場の業務プロセスやケアのあり方を根底から変える力を持っている点です。具体的には、次の3分野のテクノロジーが、今、現場で強く求められています(図表)。

選ばれる機器には共通項がある
①夜勤業務を極小化するテクノロジー
介護職員は、夜間に何度も高齢者の居室を巡回し、安全確認を行っています。こうした精神的にも身体的にも大きな負担がかかる夜勤業務を変革するため、高齢者の状況を遠隔で把握するテクノロジー機器の導入が進んでいます。
介護職員の「目」をテクノロジーで補完するソリューションの活躍によって、夜間の巡回業務自体を廃止し、本当に必要なタイミングのみ訪室するという、業務プロセスを抜本的に見直すことに成功した施設が増えてきています。今後は、高齢者の尊厳にも配慮しつつ、夜勤業務のあり方自体を刷新するテクノロジーの開発が進んでいくでしょう。
②利用者の状態に応じた「オーダーメイドケア」を実現するテクノロジー
従来の画一的ケアから、一人ひとりの状態やニーズに合わせた〝オーダーメイドケア〞への転換が求められています。近年では、睡眠センサー等の各種センサーから得られるデータをもとに個別ケアを可能にするテクノロジー機器が現場に浸透し始めています。さらにここ数年では、人工知能(AI)技術を活用し、高齢者の状態予測を行い、一人ひとりに最適なケアを提案できるようなシステムが実用化しています。介護職員の「頭脳」をサポートすることで、ケアのあり方そのものを変えるテクノロジーが今後さらに進化していくでしょう。
③間接業務を徹底的に削減するテクノロジー
介護の本質は「人にしかできないケア」ですが、実際は記録作成やシフト調整、会議議事録作成などの間接業務に多くの時間が割かれています。こうした現場の課題に対し、音声入力システムやシフト自動作成ツール等の〝間接業務効率化ツール〞が広がり始めています。テクノロジーが間接業務を担うことで、職員は本来の役割である〝人に寄り添うケア〞に集中できる環境が整い、間接業務自体をなくす方向への進化が期待されています。
次回からは、これら3つのテクノロジーを駆使して「次世代の介護」を実現している先進施設の事例と、今後求められるテクノロジー開発の方向性について、具体的に紹介します。

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
マネジャー 城岡 秀彦
【プロフィール】
富山県出身。2016年(平28) 京都大学卒業後、京都大学大学院医学研究科修士課程を修了。日本・シンガポールでの病院勤務を経て、日本総研入社。理学療法士としての経験を活かし、介護テクノロジー開発を中心とした調査研究・コンサルティングに従事。










