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【在宅医から見たホスピス住宅】「指示書で管理は困難」類型細分化を 高齢者救急の受け入れに可能性
ホスピス住宅をめぐっては、制度のあり方に関する議論が続いている。過剰訪問の抑制のために、医師の指示書による管理を強化する案も検討会などで挙がっている。ホスピス住宅が果たしてきた役割や今後の制度改正などについて、練馬、杉並、板橋区で在宅医療を行う医療法人Life Designの川原林伸昭理事長に、在宅医の視点から語ってもらった。

医療法人Life Design 川原林伸昭理事長
――ホスピス住宅の意義についてどう考えますか
川原林 医療必要度が高い神経難病やがん終末期など、自宅での生活が難しい方々に、ホスピス住宅そのものは必要だと思っています。ホスピス住宅で勤務する看護師や介護士の知識や技能は高く、介入する医科歯科を含む診療所は厳しく選別されています。クオリティーの高いチームが介入するホスピス住宅の代替となる施設の整備は、ほとんど進んでないでしょう。特定施設でもとりわけ手厚い医療や介護を要する入居者の割合が増えると、職員の離職率が高まり、医療必要度の高い入居者の受け入れが進まないという話は耳にします。
病院側の事情を見ても、緩和ケア病棟や医療療養病床でも数カ月の入院制限があるケースがあります。また入院基本料に検査や投薬、注射が含まれる報酬体系の特性上、患者への高額な医療が抑制されやすい面もあります。緩和ケア病棟で輸血やCART(腹水などを体外に取り出し、有用なタンパク成分を濃縮して患者の点滴で戻す治療法)を行うことはほとんどありません。
医療費でみると、緩和ケア病棟は1月あたり約150万円(+個室料)がかかることを考慮すると、ホスピス住宅で過ごす方が医療費は抑えらます。
今後、病院が増えることは考えにくい中、都市部の高齢化に加えて、都心部への高齢者流入が進みます。当然、がん終末期や神経難病の方も増えるため、その受け皿としてのニーズはかなり高くなります。
――いわゆる架空請求や過剰請求の問題についてはどう見ていますか
川原林 架空請求も過剰請求もあってはならないことです。某施設では、1回しか訪問していないのに3回訪問しているように架空請求をしているとニュースで見ました。
私の訪問しているホスピス住宅では、1時間ごとに痰を吸引したり、褥瘡予防で頻回に体の向きを変えたりして、請求以上にサービスを提供しているところもあります。過剰請求については、「過剰である」とだれがどのように判断するかはとても難しい問題です。
現行の制度では、訪問看護で医療保険を適用できる要件が、疾患名や状態によって判断されており、これが、過剰請求の温床となっています。同じ「がん終末期」でも、元気に食べて廊下を歩ける人もいれば、寝たきりで点滴をして1時間ごとの訪問が必要な人もいます。同じ病名や状態でも、病態によって必要な訪問回数が全く違うところ、多くが制度で認められる上限で請求するため「過剰である」と問題になっています。
――厚生労働省では、医師の指示書による訪問回数の管理強化案も出ています。それについてはどう考えますか
川原林 病態は誰一人同じではなく、同一患者でも病態は変化します。適時適切な訪問回数を判断できる診療所がどれくらいあるのでしょうか?また、少ない訪問回数を指示する診療所は、施設から選ばれなくなるかもしれません。利害関係のある診療所が訪問回数までを管理するのは難しいと考えます
別表7で一律に判断するのではなく、疾病(あるいは状態)と看護必要度で区分し、その区分ごとに報酬を設定する方法も考えられます。新たに「ナーシングホーム(仮)」というカテゴリを作成し、訪問看護師ではなく“施設看護師”のような位置づけにし、医師の指示に頼らず訪問回数を調整できるような仕組みが望ましいでしょう。ただし、報酬が一定になると、「訪問回数の減らしすぎ」が懸念されます。適切な看護が実施されるよう制度設計することが肝要です。
欧米では、必要な医療や看護、入所期間などによりナーシングホームの種類が細分化されています。退院後の短期滞在型、神経難病特化型、がん(余命の長い人)特化型、がん(余命の短い人)特化型、小児特化型、認知症特化型など、多様な類型があります。欧米のナーシングホームを参考にして、日本の優秀な看護師がもっと活躍できるよう、看護師が運営する「日本版ナーシングホーム」が増えてもいいのではないでしょうか?
――ホスピス住宅は「終末期ケア」以外の役割を果たすことも考えられますか
川原林 私は、高齢者救急の受け皿にもなり得ると考えています。昨今、軽症・中等症の高齢者の救急搬送が課題となっています。高齢者には、医療だけではなく、生活介助も必要であり、入院医療では、生活介助が不十分になる可能性があります。ホスピス住宅には、軽症・中等症の方々に対応できる医療と生活介助のノウハウが蓄積されています。例えば、認知症末期の誤嚥性肺炎に対する抗生剤治療や心不全末期の人に対するカテコラミン投与や人工呼吸器の使用など、急性期病院からの下り搬送施設としても利用できると考えます。
今後、高齢者救急は確実に増え、若年者の救急の受け入れが難しくなるかもしれません。ホスピス住宅は、制度設計によっては高齢者救急の受け皿になる可能性を秘めています。
■クリニック概要
城西在宅クリニック・練馬院・杉並院・板橋院の3拠点で在宅医療を実施。患者数は約2000人以上、年間600名以上のお看取り。医師は常勤で6名、非常勤で54名が在籍。総合内科、外科、緩和ケア、精神科、神経内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、血液内科、腎臓内科、認知症科、乳腺科、整形外科、眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、など幅広い診療に専門医が対応。










