2026年4月1日号  18面 掲載

【2040年見据える在宅医療DX座談会・後編】高まるオンライン診療の必要性 予防機能担う地域医療

2026年4月14日

 

全人的医療を支える人材育成

 

――40年に向けて、人材不足は避けて通れない課題です。

天辰 次の10年を見据えた時、鍵となるのは間違いなくAIの活用だと考えています。例えば、医師が患者と対話するだけでAIがカルテ(SOAP)の素案を作成したり、訪問看護指示書などの定型文書を自動生成したりと、技術的に代替可能な業務は確実に広がっています。こうした領域はAIに任せることで、医療者は本来向き合うべき患者や家族とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになります。人にしか提供できない価値や温かみのあるケアの質をいかに高めていくかが、これからの医療の本質になるのではないでしょうか。

 

▼前編はこちら

 

飯田 医師1人で対応できる患者の数には物理的な限界があります。そのため、看護師と密に連携し、オンラインで医師が指示を出しながら看護師に訪問してもらう、といったチーム医療の実践が不可欠です。また、診療所が全ての機能を自前で抱え込むのは経営上のリスクが高い。当院ではクラウドクリニックを導入していますが、レセプト業務のようなバックオフィス業務は専門性の高い外部サービスに委託し、我々は診療というコア業務に集中する。地域の様々な専門家と「共同で1つのチームを組む」という発想が、これからはますます重要になると感じています。

 

 

神山 スタッフの定着こそが最重要の経営課題だと位置づけています。そのため、DXの導入だけではなく、それ以上に、福利厚生の充実に力を入れています。例えば、美容医療機器や医療脱毛器を職員が利用できるようにしたり、社員旅行を企画したり。給与や待遇だけではなく、「働き続けたい」と思ってもらえるような魅力を作ること。出産などで通勤が難しくなっても、フルリモートで業務を担っているスタッフもいます。

 

 

天辰 人材育成は非常に大きな課題です。多疾患併存に加え、生活課題も複雑化していく中で、全人的な視点で診療ができる医師を育てていくことが重要です。また、全人的な医療を実現するうえでは、介護職の方々の存在が欠かせません。日々の生活を最も近くで見守っている介護職の皆さんが、自信を持って現場の気づきを医師に共有していただく。そうした相互のフィードバックを通じてチーム医療がより深化していくと思います。

 

 

3月上旬都内にて

 

 

――次の10年、持続可能な在宅医療のために何が必要でしょうか。

 40年には私自身も後期高齢者となり、在宅医療や介護を受ける立場になっているかもしれません。これまで提供側の課題が多く議論されてきましたが、受給者側のニーズも大きく変わっていくと感じています。高齢者が増えるからといって、需要が単純に増え続けるとは限りません。費用負担や生活状況を踏まえ、必要なサービスを取捨選択する人が増え、結果として供給と需要のバランスは別の形で保たれていく可能性があります。その中では、求められるサービスもより具体的で個別性の高いものになり、「なぜ訪問するのか」「どんな価値を提供できるのか」といった点がこれまで以上に問われるようになるでしょう。かつては「来てくれてありがとう」と言われる関係でしたが、これからは訪問診療の意味そのものが評価される時代になっていくと思います。

 

 

天辰 今後の地域包括ケアを考える上で、個別のクリニックという「点」ではなく、地域全体で支える「面」の視点が不可欠になります。この「面」には、病院や診療所といったフォーマルなサービスだけではなく、地域の介護施設に加え、配食サービス、ボランティア団体といったインフォーマルなサービスも含めて捉える必要があります。医療の専門性を高めると同時に、患者の日々の暮らしを支えるという、より広いケアの視点を持った人材を、職種を越えて育てていくことが重要になるでしょう。

 

 

飯田 労働力が確実に減少する中で、より多くの患者を支えるためにはテクノロジーを活用した集約的な医療モデルが必要です。今後は在宅医療が終末期を支える役割だけではなく、ウェアラブルデバイスなどを用いて重篤化を早期に防ぐ「予防」のフェーズでも重要な役割を担っていくことになるでしょう。こうした“攻めの在宅医療が広がれば、社会全体の医療費抑制にもつながるはずです。一方で、在宅医療が徐々に事業としての側面を強める中で、理念や誇り、医療の質をどう守りながら組織を成長させていくのかは大きな課題です。理想と現実のバランスをどう取るか、これが自分にとって最も重要なテーマです。

 

 

 飯田先生のお話にも関連しますが、私が強く課題として感じているのは外来患者への支援です。在宅や施設の体制整備は進みましたが、自立して生活している外来患者は支援が入りにくく、生活機能が低下してもぎりぎりまで1人でやりくりしているケースが少なくありません。そのため感染症などをきっかけに急激に状態を崩すことも多く、変化への弱さはむしろ外来患者の方が大きいと感じます。往診だけでは支えきれず、介護体制があってこそ在宅医療は機能します。「自立と在宅の間にいる人たち」を地域でどう支えていくか、これが次の10年に向けたテーマになるのではないでしょうか。

 

 

神山 今後、介護や介護者支援の分野には今よりも確実にAIなどの技術が普及していきます。介護タクシーの自動運転や、ロボットによる移動支援、さらにはロボットが訪問診療を行うような未来も考えられます。実際、いまは半年後や1年後の状況さえ見通しにくいほど変化のスピードが速いと感じます。そう考えると10年後はなおさら予測が難しい一方で、技術革新の加速によって、想像している未来が意外と早く現実になる可能性もあるのではないかと思います。その変化に対応できるよう、学びも大切にしていきたいです。

 

 

島田 医療の質を保つためには、優秀な人材が集まり続ける環境づくりが不可欠です。待遇や社会的評価が低下すれば、医療への信頼そのものが揺らぎかねません。社会保障を持続させるためには、国全体の成長と適切な制度設計が重要です。また、医療計画などの議論では理念だけではなく、現場が実際に動けるようなコスト面の議論も欠かせません。制度は国が設計しているものですが、それを支えている医療機関側もその前提を理解したうえで現場の意見をしっかりと国へ伝えていく必要があります。

 

 

川島 技術進歩が急速に進む一方で、制度や現場の変化は比較的緩やかに進んでいると感じます。電子カルテや生成AIRPAなどの進展は確かに見られるものの、医療には対人的に担うべき本質的な領域も多く、変えてはならない部分も少なくありません。次の10年に向けて、在宅医療の先生方との連携をさらに深め、現場の実情に寄り添った形でさまざまな技術を活かしながら、課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

 

 

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