≪コロナ政策 中間評価と緊急提言≫死亡者数、増大ペース顕著に

2021年3月5日

—連載⑧ 急増するコロナ死亡と高齢者施設—

 

 

新型コロナウイルス(COVID19、以下、コロナと表記する)が日本に上陸してからほぼ1 年、この間、日本では、死亡者が少なく、コロナ政策の成果が国際的にも高く評価されて来た。 しかし、ここ数週間、緊急を要する深刻な事態や認識の転換を必要とする事例などが生じている。 そこで、改めて現状分析し、施設の責任者、専門家、行政担当者、国民の皆様に問題提起したい。

 

 

 

 

 

1 緊急分析

①急増する死亡数

 

コロナ政策の主要な指標「死亡」で評価すると、38人(人口100万人当、累積死者、1月20日時点、欧州疾病管理センター調べ)と高位の欧米諸国に比して30〜40分の1、世界の中でも99位(人口100万以上の国1 5 4 か国中) と低く、世界的に高い評価されてきた。

 

しかし、その成果は急転し、最近1ヶ月半の間に、死亡は倍増するに至っている。1日当たり10人前後であった死者数が11月の終わりから増加し、120人に達している。

 

このまま1日120人のペースが続くと、1か月後3月10日には1万人を越ししヨーロッパ最低のノルウエーに近づき、それが7月まで続くと、2.5万人、即ち、現在の世界の平均値にまで達すると危惧される。1日50人のペースでも、4月半ばには1万人に達すると考えられる。

 

これらの危惧は空想ではない。日本は世界1の高齢国だからである。世界的にはコロナによる死亡者のうち45%が高齢者施設関連で、欧米諸国の分析によると医療崩壊というよりは、介護崩壊が高死亡率の主要な原因とされている。日本では、これまで高齢者施設関連死亡者は14%と低く、40〜80%を占める欧米国々に比して大幅に低かった。

 

 

 

病院、介護施設で集団感染多発

高齢者施設の拠点防御に焦点を

 

しかし、最近の集団発生は、高齢者の多い病院、介護施設に重心が移動している。このまま放置すれば70歳以上人口18.5%の日本が欧州の国々と同様の死者数となっても不思議ではない。また感染数ではなく死亡数で評価すると県別の様態が異なって見える。大阪、兵庫、東京が上位を争っており、山口が急激に上昇している。高齢者施設での対応がその原因と考えられる。高齢者施設の拠点防御に焦点をあてた緊急の対応が求められている。

 

 

 

 

②急増する施設の集団発生と死亡

 

新型コロナウイルス感染症対策分科会の資料によると昨年12月から1月にかけての集団感染は、件数では医療と介護などの施設が多く半数近くを占めるに至っている。1回の集団発生では他の場所に比して、医療と介護などの施設当たりの感染者は平均で22.7人と多く、人数で見ると60%を越している。今年1月の東京都の死亡を見ると154人のうち感染の場所は病院と福祉施設を合わせて122人、全体の79%を占めるに至っている。

 

 

 

 

2 緊急提案

 

従来の対策は感染者数の減少を重点目標に進められてきた。しかし以上の分析によると、感染が市中に拡がり、いわゆるエンデミックの状態へと転換している。従ってリスクの多い場所や人を対象にして、重点的に防禦する対策へ緊急に移行する必要がある。

 

その為には第6回で提案したように、対象が「感染した場合に重症化や死亡などのリスクが高いかどうか」と、「ウイルスに暴露されるリスクが高い場所かどうか」の二つの軸で層別化する必要がある。病院や、高齢者施設は高齢で様々な疾患を抱え、感染すると死亡のリスクが高い。逆に他の場所にはそれほどリスクの高い人はいない。欧米での死亡が介護施設で多かったのはその理由による。入院入所者には医療やケアが必要で濃厚接触は避けられない。病院入院中の高齢者や透析患者などの高リスク者、介護施設やデイケアの高齢者が重点防御の対象となる。

 

これらの施設は爆発の可能性の有る火薬庫の様なものである。

 

火薬庫に火を投げ込まないようにすること、そして投げ込まれてもすぐ火を消せるようにしておくことが肝要である。

 

 

以上の分析より、今後のコロナ対策は、重点課題を転換して進めるべきである。

 

・政策目標を感染者数から死亡者数減少へ

・高齢者施設の拠点防御:クラスター発生前の指導、発生時の介入

 

 

 

一般社団法人未来医療研究機構 長谷川敏彦代表理事

(プロフィール)

アメリカでの外科の専門医レジデント研修など15年の外科医生活、ハーバード大学公衆衛生大学院での学習研究を経て1986年に旧厚生省に入省し、「がん政策」「寝たきり老人ゼロ作戦」を立案。その後、国立医療・病院管理研究所で医療政策研究部長、国立保健医療科学院で政策科学部長。日本医科大学で医療管理学主任教授を経て、2014年に未来医療研究機構を設立。現在、地域包括ケアや21世紀のための新たな医学、公衆衛生学、社会福祉学そして進化生態医学創設に向け研究中。  

 

 

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