残業代への正しい理解/弁護士 家永勲氏
<連載第119回 介護職現場での残業>
裁判例上から確認を
介護現場では、残業が恒常的に発生していることが散見されます。 今回のテーマでは、残業について理解の誤りがあったために残業代の支払いを余儀なくされた実際の事例を紹介します。
(1) 使用者が、「基本給に固定残業代が含まれているから、残業代は支払う必要がない」と解釈していた事例
使用者が、基本給に固定残業代を含めて支給しているから残業代は適切に支払われていると解釈していても、固定残業代として適法に支払われていると判断される可能性は低いものと考えられます。すなわち、固定残業代が、基本給とは別に、適法に固定残業代として支払われていると認められるためには、労使間で、固定残業代として支払われている金銭であることを明確にしていること、実際の残業時間を換算した残業代が固定残業代の額を超える場合には、その差額が支払われていること等の事情が必要となります。
現在、固定残業代を導入している、もしくはこれから固定残業代の導入を検討する場合には、固定残業代についての裁判例上の扱いを正しく理解することが求められます。
(2) 残業許可制を採っている会社において、使用者が「残業許可をしていないから、残業代を支払う必要がない」と解釈していた事例
次に、残業許可をしていないから残業代を支払う必要がないと判断していた事例に関して、判決で残業代の支払いを命じられた例があります。 使用者が残業を許可していなくても、残業を黙認している等の事情がある場合は、就業規則や雇用契約書等に、残業をする際には上長の許可を得ることを明記していたとしても、会社の指揮命令下にあったものとして残業代の支払いが命じられる可能性が高いと考えられます。
このような事態にならないよう、許可制の運用を就業規則等に定めるとともに、残業許可の申請書の事前提出を徹底することや、残業申請をしていない場合には直ちに帰宅し自らの判断で勝手に残業しないこと等を従業員に周知することが肝要です。
2020年4月1日以降に支払日の到来する残業代については、時効が3年と改正されました。意図しない残業代の発生を防ぐために、今一度、運用を確認されることをおすすめします。
弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士
家永 勲氏
【プロフィール】 不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。 介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。