【上海福祉の今】中小事業者経営難に直面 コロナ禍の介護事業 /王青氏
新型コロナウイルス感染が世界的なパンデミックになり早2年半が経過した。中国では少しでも感染者がでると、介護施設ではすぐに緊急体制がとられた。人の出入りを制限し、厳しい「封鎖管理」を実施している。
今年3月末から実施していたロックダウンが、6月1日にようやく全面解除されたが、介護施設は今もなお「封鎖管理」が継続されている状況である。 「物価高騰でコストが増加した上に、収入は減少。にもかかわらず、給料や社会保険料などは変わらない。長らく続いたロックダウンで、スタッフは心身ともに限界がきている」と口を揃えるのは、上海の中小介護事業者の経営者である。
コロナ禍でも介護業界への新規参入は進み、新しい介護施設が増え、競争が加速している。このような状況で多くの中小介護事業者は経営危機を迎えている。 具体的にどのような悪影響を及ぼしているのか。
①介護施設内でのクラスター発生で業務に支障をきたし、家族からの苦情が増加。その対応に追われている。 ②厳しいロックダウンで、業務や手続きなどが通常通りに行えず、新規入居者を受け入れられないなどの状況が続いている。 ③薬品や医療用品などの必需品が欠品し、入居者の生命に危険を及ぼした。実際に、入居者が亡くなった事例も発生した。 ④スタッフが施設内に数ヵ月以上も寝泊まりし、長らく帰宅できておらず、体力・精神的に疲弊している。慢性的な人手不足で現場は踏んだり蹴ったりの状況で、スタッフによる入居者への虐待が続出し、介護施設に対する社会からの不信感が強まってしまった。 ⑤流通が停止、物価・コストが上昇したことで、経営の継続が困難な状況にある。
これらを踏まえ、専門家はコロナ収束後、大手による中小介護事業者の買収や合併が活発になり、業界再編が進むだろうと予測している。
また、中小介護事業者の経営者に対して、本業以外にも、高齢者ビジネスを始めるなど事業の多角化をすべきだと警鐘を鳴らす。
介護事業者の経営者らは、政府や金融機関などに、政策や資金面での支援を求めている一方、彼ら自身も、人手不足を打開するためにはICT活用などによる省力化をしなければならないと危機感を持っている。何よりも入居率を高めるためには、「入居者が住みやすい施設とは何か」という利用者目線が重要であるということが改めて再認識されている。
介護業界では、「高齢者に幸せな老後を過ごしてもらいたい」という純粋な想いで事業を始めた経営者が少なくない。コロナ禍の苦境を何とか乗り越えて欲しいと強く願うばかりである。
王 青氏 日中福祉プランニング代表 中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。