家族トラブル必至の原因不明骨折/安全な介護 山田滋氏
相変わらず無策の対応
「要介護5でほぼ寝たきりの利用者の左上腕骨に腫れが見つかり、受診したら骨折していた」といった「原因不明の骨折」は、よく家族トラブルに発展します。家族は「介護職が骨折させたに違いない、調査せよ」と言ってくる。施設が「職員に事情聴取したが原因は不明」と正直に報告するも、虐待の疑いへと事態は悪化します。
動けない利用者が骨折し、何の説明もなく引き下がる家族などいませんからトラブルは必至です。なぜ、起こると分かっている事態に何の策も講じないのでしょうか?
■施設の法的責任は債務不履行責任
施設で発生する事故の責任は債務不履行責任という契約上の責任です。施設は入所契約上、安全なサービス提供によって事故を防止する契約上の義務(安全配慮義務)を負っています。
債務不履行責任(民法第415条)では、無過失の立証責任は加害者側にあり、事故が発生して利用者に被害が発生した時、賠償義務が無いことを主張するには施設が無過失を立証しなければなりません。
実際の裁判になれば、過失認定は次のような判断になるでしょう。「利用者はほとんど自発動作が無いため、自ら動いて骨折する可能性は低く、介助中に骨折させた可能性が高い。よって施設側の過失と判断する」と。
事故の賠償責任は施設側にあることがほぼ確定しており、事故状況や事故原因についての説明責任も施設側にあるのです。施設はまず、損害賠償責任について説明し、次に事故の原因についてもあらゆる可能性を検証して報告しなければなりません。
ちなみに、私たちのマニュアルでは原因不明の骨折が判明した時点で、管理者が病院に急行し次のように説明することになっています。
「お母様は自発動作がほとんどありませんから、ご自分で動いて骨折する可能性は極めて低いと考えられます。ですから、今回の事故は介護職員が介助中に骨折させた可能性が高いと考えています。よって今回の事故は施設側の過失ですので、治療費や手術代などの費用は施設で賠償させていただきます」と。
■事故原因の検証方法
損害を賠償して治療費などを支払っても、事故の原因や再発防止策について説明しなければ、家族は納得してくれません。では、どのように事故原因を検証し、どのように説明したら良いのでしょうか?
まず、事故と虐待の両面から、次の5つのケースに分けて可能性を検証します。
1.故意に傷つける目的で暴行し受傷させた(虐待)
2.虐待の意図はなく乱暴な介助によって受傷させた(不適切なケア)
3.危険な介助方法で介助して受傷させた(ルール違反など)
4.介助中の介助ミスによって受傷させた(ミスによる事故)
5.介助中の不可抗力的な偶発事故で受傷させた(不可抗力の事故)
まず原因不明の骨折では、虐待の可能性は低いと判断します。虐待は隠れた場所に傷をつけるなど、見つかりにくい部位を受傷させるのが一般的だからです。
次に事故の可能性を検証します。
■介助中の事故の検証
ここでは「上腕骨の螺旋骨折(捻って骨折する)」事故の検証事例をご紹介しましょう。
上腕骨を捻って骨折するのは、オムツ交換時の体位変換や更衣介助時の可能性が高いと考えました。次に、介護職員一人ひとりが体位変換や更衣介助の方法を実際に行って、腕を捻るような場面がないかをチェック。介護主任や施設長を利用者役のモデルに、日頃やっている方法で介助してもらいました(ビデオで全て記録しておきます)。
全ての職員のオムツ交換と更衣の介助場面をチェックしたところ、更衣の介助方法が正しくない職員が1人いました。被るタイプの着衣を脱がす時に、通常は頭を先に抜いてから腕を抜きますが、この順序が逆だったのです。腕を先に抜こうとすると、無理な力がかかることは明らかです。
調査報告書を作成して家族に説明すると「施設長自ら調査いただきありがとうございました。今後は注意して下さい」と言ってくれました。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など