【特集◇増加するホスピス住宅 最新動向と展望 Part.1】ターミナル特化拡大続ける市場
超高齢社会となり久しい日本に、“多死時代”が到来している。2022年の年間死亡者数は約150万人に上る。病院で死亡する人の割合が多い日本だが、国は病床再編、機能分化による病床数削減、在宅死率の引き上げを掲げている。病院以外の看取り場所のニーズが高まる中、近年介護業界で勢いを増すのが、「ホスピス型住宅」を展開する企業だ。今回は、ホスピス型住宅の社会的意義やビジネスモデル、収益性、さらには将来の展望に迫る。
看取り場所の整備、急務
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計)によると、2040年時点の年間死亡者数は約168万人になると推計されている。同推計では、今後第2次ベビーブーム世代の高齢化が進み、毎年150万人以上が死亡する時代が71年まで約50年間続くとしている。
従来、日本は世界各国と比較しても病院での死亡率が高い。オランダは約3割、アメリカは約4割、フランスは約6割であるのに対し、日本は約75%と、その差は歴然だ。国は地域医療構想を掲げ、医療提供体制の効率化、医療費削減のため病床再編、機能分化による病床数削減を目指す。在宅(介護施設を含む)での死亡率を22年時点の約27%から38年までに40%まで引き上げる方針だ。
近年では病院などの医療機関以外で死亡する人が増加しつつある。自宅での死亡者数は10年の約15万人が20年には約 21.6万人と、10年間で約6.6万人増加。老人ホームでの死亡者数の伸び率も高く、10年の4.2万人が20年には 12.5万人と、3倍に増えている。(21年度厚生統計要覧)。さらに、「自宅で最期を迎えたい」という国民は約7割と、一定して高い傾向を示す(厚労省・終末期医療に関する調査18年時点)。
毎年150万人以上が死を迎える時代において、国が目指す25年時点での病床数は115~119万床。ターミナル期の人の受け皿整備は急務となっている。
医療依存度高い人の受け皿に
こうした看取り場所の必要性に応えるのが、受け入れ体制を整えたホスピス型住宅だ。近年、介護業界でこれを展開する企業の成長が目立っている。この流れを牽引する代表格が、16年設立のアンビスホールディングス(東京都中央区/以下・アンビス)、17年設立の日本ホスピスホールディングス(同千代田区/以下・日本ホスピス)、同じく17年設立のCUCホスピス(同中央区)だろう。アンビスと日本ホスピスはともに19年に上場を果たしている。
「医心館」を展開するアンビスは、22年9月時点の総定員数は2802名、これを25年9月までに6328名とする計画。売上高は22年9月期で約230億円。“新3年計画”を掲げ、25年時点で売上高523億円達成を目指す。
日本ホスピスが展開する「ファミリー・ホスピス」は現在総定員数が12月時点で934名。22年度末までには979まで増やすとしており、こちらも拠点数拡大を進める。
CUCホスピスは、他事業者が運営する既存の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の一部フロアを賃借し、自社の訪問看護事業所を併設することでホスピス型住宅の運営を担うスキームが特徴。新規開設と併せて、拠点数を増やしている。自社での新規開設施設の総定員数は、377名(出所:TRデータテクノロジー)。先述の1フロア転換の定員数を合わせると実際に運営を担う定員数はこれより多いことが推測される。
(Part.2に続く)
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■障害と終末期、ボーダーレスに / TRデータテクノロジー

TRデータテクノロジー
曽根隆夫取締役
――ホスピス型住宅の特徴について
曽根 大手事業者が運営するホスピス型住宅の入居者は要介護度4、5の人が約6割を占める。看取りを行うことが前提のため、支援体制が手厚い。一般の訪問看護事業所と比較してホスピス型住宅事業者の訪看では、より多くの医療対応を行っていることがわかる(グラフ参照)。また24時間電話対応を例にすれば、一般の訪看の対応率が92%であるのに対し、ホスピス型主要事業者の場合は100%だ。
特定施設などと比較して生活上の自由度が高いことも特徴。がん末期で入居した20代女性の例では、ホスピス型住宅内で結婚式を執り行った例もあるという。
――市場の動向について
曽根 ホスピス型住宅に限らず、障害者を受け入れている介護事業者も数年前から増えている印象。介護報酬が今後絞られていくことが予想される中、障害の分野で販路を拡大したい、という事業者も多いのではないか。終末期と障害分野がボーダーレスになりつつあると思う。
ホスピス型住宅は今後、報酬体系の見直しも考えられるが、適切なアセスメントに則った量より質のサービスが求められる。病院での治療後、行先がない患者が最期の数ヵ月を過ごす場としてホスピス型住宅の入居ニーズはまだまだ高まることが予想される。
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■ICU出身ナース採用 / アンビス ホールディングス

アンビスホールディングス
医心館 運営本部長
大柴福子看護師
アンビスホールディングスは、東日本を中心にホスピス型住宅「医心館」を展開している。なるべく多くの医療依存度の高い人に「自宅と同様に過ごせる場所」を提供すべく、家賃は10万円以下と低めに設定。所得に関わらず入居できる住まいだ。
入居後は、最期まで医心館で過ごす人が多いという。ケアにおいては、看護師のスキルや経験値が重要となる。「ICUや急性期病棟出身で、入居者の状態を適切にアセスメントできる看護師を積極的に採用しています」と医心館運営本部長の大柴福子看護師。看護師の配置は手厚く、夜間の体制は病棟並みだ。
教育体制構築にも力を入れている。「本社の看護師がオンラインで研修を行ったり、定期的に各施設を回るなどし、技術面の指導をします」(大柴看護師)。そのため対応するケアは幅広い。医師と密に連携を取り、中心静脈栄養法、麻薬での疼痛緩和、ストーマ管理など、がん末期や神経難病に必要な医療処置に対応する。例えば、医療用麻薬の持続注入に加えてレスキュードーズを使用しながら疼痛コントロールしている人、多発性骨髄腫で輸血治療を受ける人などが入居している。
自宅にいるような安心感を提供することも重視。ケア以外の時間は居室で、映画鑑賞や絵画など趣味を大切にしている入居者もいる。
医心館は療養先の確保が難しい医療依存度が高い人の受け皿としての役割を担っている。特に引き受け手が少ない重度の人、終末期の人のケアに注力していく方針だ。