医療と介護の制度連携 リハビリに見るその困難性/武藤正樹氏

2023年5月19日

 

 

 

 

 

3月15日、24年診療報酬・介護報酬の同時改定へ向け、中医協総会と介護給付費分科会の主要メンバーの合同「意見交換会」が開催された。その中で、医療と介護の間におけるリハビリの情報連携の問題が取り上げられた。

 

リハビリには「急性期から回復期までは医療が担い、生活期を介護が担う」という役割分担がある。しかし意見交換会では、この医療リハビリと介護リハビリの間の情報連携が行われていない実態が明らかになった。

 

 

具体的には「医療におけるリハビリ実施計画書が、介護分野に引き継がれるケースが少ない」。例えば医療リハビリにおける疾病別リハビリの実施計画書の44%が利用者の手元に留まっていて、介護リハビリの実施者に届いていない。とりわけ同一法人・関連医療機関からの紹介以外のケースでは、介護リハビリ側の52%が、医療リハビリ側の疾病別リハビリ計画書を入手していなかった。また28%の事例では介護リハビリ実施者が移行前の疾患別リハビリの種別すら把握していなかった。

 

 

実はリハビリについては過去にも医療と介護の役割分担と連携が大問題となったことがある。この問題の発端は17年前の06年の診療報酬改定だ。この改定で医療保険による回復期リハビリで疾患別にそのリハビリの算定上限日数が決められた。その理由は「長期間における効果が明確でないリハビリが際限なく行われている」との指摘から、疾患毎に算定日数の上限が導入された。これによって脳血管疾患等リハは180日、心大血管リハは150日、運動器リハは150日、呼吸器リハは90日のように算定日数制限がなされた。そしてそれ以降は介護保険によるリハビリに移行することとした。

 

ところがこれに対して障害者団体や福祉・医療関係者らが「(リハビリ日数制限は)生活力の低下や要介護度の重度化を招く」と大反発がおこり、マスコミも「リハビリ難民」と大々的にキャンペーンを張った。厚生労働省は先述のように医療保険でカバーするリハビリは決められた期間を過ぎて維持期に移行すれば、介護保険に移行すべきという考えだった。しかしこの問題は診療報酬改定の議論のたびに、「医療保険での維持期リハビリには一定のニーズがあり、介護保険への移行が難しい」という議論により押し戻された。そしてその解決になんと13年も要して、19年末にようやく要介護者に対する医療リハビリは打ち切られ介護リハビリへの移行が決まった。

 

しかし今回、またしても医療リハビリと介護リハビリの間の情報連携の不備が明るみになった。医療と介護の制度間の橋渡しがいかに困難かを改めて感じさせたできごとだ。

 

 

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)

 

 

 

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