2024年2月14日号号  10面 掲載

今、災害関連死を防ぐために “自費”で活動するケア職たち/医療法人社団 悠翔会 佐々木淳氏【連載第54回】

2024年2月15日

災害による死亡は、災害直接死だけではない。一命をとりとめたのに、その後の避難生活における栄養・衛生面の問題、医療や介護の不足、環境変化のストレスなどで亡くなる方が少なくない。実際、2016年熊本地震では直接死50人に対して、その4倍近い197人もの災害関連死が発生した。多くが基礎疾患のある人や高齢者など、ケアが必要な人たちだった。

 

元日に能登半島を襲った震災は多数の家屋とインフラを破壊した。未だに水道が利用できない地域も存在する。暖房設備の乏しい体育館など、厳しい環境下で避難生活を強いられている方々の多くは脆弱な高齢者。その多くが複数の病気や機能障害を持つ。このままでは多数の災害関連死が生じる危険性が高い。

 

 

災害関連死と支援体制

山岸暁美氏が作成した図を著者改変

 

 

災害直接死を最小化する戦いは終わった。

 

熊本地震では、1週間以内に亡くなった人は24%、14週以内が33%、13ヵ月以内が24%、それ以降に亡くなった方が19%。東日本大震災では、1週間以内が18%、14週以内が30%、13ヵ月以内が30%、それ以降が22%。発災1ヵ月後から死亡者が増えていく。助かったいのちのその先の〝生きる〞を支え、災害関連死を阻止するための戦いは、実はこれからが本番なのだ。

 

 

ケア職らが活躍する「DC-CAT」の募金について ( https://dccat.hp.peraichi.com/ )
◆寄付口座◆
住信SBIネット銀行 法人第一支店(106) 普通 1693617
シャ)コミュニティヘルスケンキュウキコウ
一般社団法人コミュニティヘルス研究機構

 

 

災害関連死の大半は循環器系疾患(心不全・脳卒中など)と呼吸器系疾患(肺炎など)によって占められる。そこに既往症の悪化や自殺が加わる。服薬管理に加えて、体温や栄養・水分の管理、肺炎予防のための口腔ケアの支援なども重要になる。避難生活そのものが災害関連死のリスクになる。いかにリスクを軽減できるか。まさに、看護・介護専門職がケアの現場で日々実践している技術やスキルが求められている。

 

発災直後の支援には自衛隊を始めとした高い機動力、そしてDMATJMATDWATなど強力な広域医療支援の公的枠組みがある。しかし、避難所や被災家屋で過ごされている方々をケアするための広域支援の公的枠組みは存在しない。そのための国の予算枠もない。ボランティア団体やNPOがそれぞれの支援先をサポートしているが、カバーできていない避難所や地域もあり、支援のミスマッチやムダも生じている。

 

被災した地域全体を漏れなくサポートするためには、自治体と連携し限られた「ケア」という資源を効果的・計画的に配分するとともに、それを継続するための仕組みが必要だ。

 

そこでコミュニティヘルス研究機構の山岸暁美氏を中心に新しい広域支援組織DC-CATが創設された。

 

 

 

 

山岸氏らのチームは、これまで阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨など、各地の大規模災害において、被災した地域が日常生活を取り戻すまでの亜急性期〜慢性期の支援に主に関わってきた。その中で明らかになってきたのが「ケア」の重要性。しかし医療系の災害派遣チームが多く存在する中、ケアニーズに包括的に対応できる災害派遣チームは存在しない。そこでケアにフォーカスした支援体制の構築を目指し、新しい支援チームが誕生することになった。

 

DC-CATとはDisaster Community-Care Assistance Teamの略。災害支援活動のスキルを持つケア専門職(看護師・介護福祉士・社会福祉士・薬剤師・歯科衛生士など)を被災地に派遣し、被災地の都道府県庁および地元の自治体や医療機関、DMATJMATなどとも連携しながら、ケアが必要な被災者の生命と生活を守る。そして、被災地の医療介護サービスが再び機能回復し、自立したケア提供体制が確保できるまで、地域に不足するケアを広域から支援し、地域コミュニティ・地域包括ケアシステムの復旧をサポートする。

 

DC-CATは、すでに能登半島地震の被災地に延べ600人の支援活動を行ってきている。現在、石川県庁および輪島市、穴水市、七尾市、志賀町などの自治体、職能団体と連携しながら、避難所や福祉施設に専門職を派遣、ケアを提供している。

 

厳しい環境の中で、必要なケアが受けられず、衰弱しつつある高齢者がたくさんいる。十分な支援が提供できていない避難所や地域も存在する。支援にあたるケア専門職も被災者と同じく厳しい状況の中で、一つでも多くのいのちを守ろうと日々奮闘している。

 

この活動は完全なボランティア、今後もボランティアとして継続される予定だ。しかし、活動に参加する専門職の確保は徐々に困難になってきている。その最大のネックが移動コストだ。メンバーは被災地との往復に5〜10万円の交通費を自己負担している。

 

全員が専門職として医療機関や介護施設で仕事をしながら休暇を活用して支援活動に参加する。DMATのように業務として支援できる立場にないため、長期間の連続活動は困難で、多くの専門職は被災地と職場を複数回往復しながら支援活動に従事する。その活動にかかるコスト(衛生材料や宿泊のための寝袋など)は原則自己負担だ。

 

本来、要介護被災者に対して必要なケアを提供するという業務は、公的予算に基づいて公的支援として行われるべきだ。しかし被災地のケアニーズに対応できる公的支援は圧倒的に不足している。現地での活動はリスクが高く、かつ24時間体制だ。それらは自治体からの依頼や委託に基づく。にもかかわらず活動費を一切受け取っていない。市の補助金支出には議会の承認など複数のプロセスを経る必要があり、迅速な予算措置は困難なのが実情だ。

 

被災地支援は将来の地域の医療ケア提供体制を見越して整えていく必要がある。DC-CATは各自治体とともに中長期的に持続可能な仕組みづくりにも取り組んでいる。しかしこの長期にわたる支援もボランティアだ。

 

ケア業界の給与レベルは高いものではない。高度なスキルや意欲があっても、経済的な理由で支援活動に参加できないという専門職は少なくない。広域からの被災地支援を継続していくためには、自らケアを提供する専門職自身の良心と経済的負担だけに依存しない仕組みが必要不可欠だ。

 

災害現場でたくさんの自衛隊員や救急隊員が活動し一人の高齢者が救出される。ドラマティックなニュースとして報道される。しかし、避難所で人知れずに衰弱し、たくさんの方々が亡くなっていることにメディアの多くは無関心だ。救命のためにあれだけ大量のリソースを投入するのに、せっかく救われた命に十分なケアが行われることなく放置されている。この厳しい現状をぜひ多くの人に知ってほしい。

 

そして、この新しい団体が災害関連死を防ぐための広域支援を継続するための予算確保・人材確保に協力してほしい。自治体からの予算獲得に時間がかかる中、それまでの間の活動資金の確保は喫緊の課題だ。災害支援に関わりたいと考える専門職は少なくないが、支援活動のための技術、休暇、資金などが確保できず、実際に参加できるのは現状、ごく一部にとどまる。活動のための交通費が確保できれば、現地に入れる専門職を増やすことができる。また、活動費用を寄付するという形での支援活動への参加が可能になる。

 

 

 

 

日本の災害支援体制は、災害を重ねるたびに徐々に洗練されてきた。しかし、ケア支援の部分だけが置き去りになっている。DC-CATは、現在、被災地支援活動をしながら、ケア専門職に対する災害支援研修を提供する、被災地のケアニーズや支援アウトカムに関する研究活動にも同時に着手している。超高齢社会日本におけるこれからの災害支援をケアの側面から強化していくために、ぜひこの支援活動を応援してほしい。

 

 

ケア職らが活躍する「DC-CAT」の募金について ( https://dccat.hp.peraichi.com/ )
◆寄付口座◆
住信SBIネット銀行 法人第一支店(106) 普通 1693617
シャ)コミュニティヘルスケンキュウキコウ
一般社団法人コミュニティヘルス研究機構

 

 

 

佐々木淳氏 医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長 1998年、筑波大学医学専門学群卒業。 三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。

 

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