2025年8月6日号  6面 掲載

老人ホーム入居紹介料問題を考える③〝ベストマッチ〟守る 「誤情報で誘導」防止 各社一致 仕組み活用し透明性確保 【高齢者住まい事業者団体連合会×紹介会社 座談会】 

2025年8月12日

 

<②より続く>

 

 

――だからこそ届出制度でも、遵守項目の中に「入居希望者の介護度や医療の必要度等の個人の状況や属性に応じて手数料を設定するといった、社会保障費の不適切な費消を助長するとの誤解を与えるような手数料の設定を行わないこと」と設けられています。一方でこれが厳しくなりすぎると、運営側の自由度を奪う懸念もあります

田中 まさしくそうで、入居一時金が数億円のホームへの入居が成約した際、仮に紹介料100万円だったとして、その額が高いかどうかという話です。その数億円の居室の入居者を1人獲得するのに運営事業者がどれほどのコストを投じるかで言えば、100万円では到底追いつきません。数百万、数千万円をかけて募集してやっと1人獲得できるといったケースに対し、仮に100万円と設定された紹介料が非常識に高いかというとそうではないと思います。当然ですが、紹介会社側も膨大な労力や時間をかけて、入居検討者を獲得し準備するわけです。

 

岩﨑 もちろん高額な施設で紹介料が100万円に上るケースはあります。一方で、ホスピス型住宅などで明らかに社会保障費が出所になっているような運営事業者からは受け取っていません。報道を受けて初めてそうしたケースがあることを把握したほどなので、ごく一部で行われていることだけを取り上げたのだろうと見ています。

 

 

エイジプラス 岩﨑考洋社長

 

 

藤田 当社も報道を受けてホスピス型住宅からの契約書を確認したところ、「相談者が生活保護を受給している場合でも100万円支払います」と謳うホームがあったことは事実。しかし相談員からすると、数字も大事ですが優先すべきはお客様です。100万円超の手数料をいただくことが悪いかどうかというよりも、本当にその施設がベストマッチであれば紹介すれば良いのであって、手数料に引っ張られて、ほかに良い施設があるにもかかわらず手数料の高い施設を紹介するようなことだけはしないよう言い続けるしかないと思っています。

 

 相談員の数字を上げたいという気持ちと倫理観とのバランスをとるため、社内での線引きがあると良いですね。

 

嘉門 今回問題だったのは、不正や過剰請求がありながら紹介手数料を高く設定していた施設もあったという点です。

 

田中 不正請求を見越したビジネスを行うこと自体が、そもそも問題だと感じます。あとは社会保障費云々の話でいうと、生活保護受給者への施設紹介手数料についても課題があります。

 

市原 生活保護受給者が福祉事務所に行って相談する際、行政担当者がホスピス型住宅を紹介する例もあります。つまり、行政がしっかり制度で支えていかなければならない部分を民間で受け入れているという側面もあるということ。社会保障費と紹介料の関係性は、まだ議論を重ねる必要があろうかと思います。

 

 

 

 

――紹介会社に求められる「ベストマッチ」の提供。これをどのように守っていけるでしょうか

藤田 紹介するホームがベストマッチかどうかというのは、定性的な評価でしか測れないため難しい。とはいえ、ソーシャルワーカーやケアマネジャーなどから紹介を受けて相談業務を行う上で、マッチしない施設を紹介してしまうと、本人や家族はもちろんのこと、ソーシャルワーカーやケアマネジャーにも迷惑をおかけすることになります。そこを意識することで一定の質を確保できるという側面もあります。

 

田中 健全経営ができていれば、紹介料にかかわらずベストマッチのみを目指せるものの、残念ながら赤字続きで企業経営が厳しい時には、やはり紹介料の高い方に寄ってしまうというケースも事実としてあるのではないでしょうか。希望条件を満たすベストマッチな施設が2つあれば、手数料の高い方にどうしても傾く。あとは相談員の給与の問題もあります。売上に応じた出来高制で給与収入が増えるのであれば、相談員が手数料の高いところを紹介する可能性は高まります。

 

岩﨑 当社サービスはWebサイトなので、対面型よりは誘導が効かないと思います。いずれにしても案件化率と成約率を評価するので、相談員が自主的に紹介料の高い施設を紹介するという傾向はあまりありません。一方で、紹介手数料増額キャンペーンなどを実施している施設については、問い合わせが増えるような仕組みをつくったりもしています。

 

藤田 当社ではインセンティブを設けていますが、「紹介料の高い方に寄ってしまう」という事態をどう防ぐかについてはしっかりと見ています。エリアや期間を区切って、紹介料が一定の範囲を推移しているのであれば、紹介料に過度に引っ張られたようなサービスはしてないと判断できる。高ぶれしているケースがあれば、介入して指示を出します。

 

嘉門 良くないのは相談者に誤った情報を与えることであって、知っていることを隠したり、捻じ曲げて情報を与えたりしてはならない、ということに尽きます。「紹介」「提案」「誘導」という言葉がありますが、手数料欲しさに誤情報を与え「誘導」するという行為はあってはなりません。

 

また一方で、お客様としても入居費や月額料金を支払えないところに入るような人は基本的にいませんので、極端な誘導というのはある意味不可能でしょう。ただ、あえてベストマッチなホームの情報を隠して、別のホームに誘導していく程度だとお客様も見抜けないですし、防がなくてはならないと思います。

 

この透明性やベストマッチというテーマは非常に難しく、例えば当社が紹介できるホーム数と、起業して1年目の紹介会社が紹介できるホーム数は圧倒的に異なってしまいます。しかし、それぞれの紹介会社が知り得る範囲でベストマッチを目指していると思うと、何が透明でベストマッチかという定義は一言では表せません。目先の利益で手数料の高いところばかりを選ぶのか、良い仕事をして信頼を得て長く仕事をしていくのかという比重で考えれば、後者の比重が当然高くなります。

 

市原 有料老人ホームの検討会で有識者が言っていたのは、「紹介の責任をどこまで負うのか」という点。入口ではベストマッチでも、その後運営法人が変わったり施設長が変わったりして、方向性が変化してしまうこともあり得るわけです。

 

 各紹介会社が事業を継続し、発展させていくことは大事です。ただし誤った誘導はあってはならない。各社が正しいモラルと倫理観を持って事業を継続していくためにも届出制度には大きな意義があり、これにより業界の中から自然と浄化されていくようになれば、悪い方向に進まないのではないかと感じました。

 

 

――まさに届出制度が目指すところですね

光元 今後は、消費者目線でのホーム入居委託業務の適正化を旗印に、国・行政の関与も得つつ、関係者が協議を行う体制作りが非常に重要になると考えます。

 

市原 届出制度は、運営事業者と紹介会社が知恵を出し合ってできています。この規則に違反した場合には届出リストからの削除に同意いただくという行動指針になっていますが、その判定をどう行うかという課題があります。重大違反なのか軽微な無意識の違反なのか、判定委員会のような仕組みをどう整えるのかについて、考えていかなくてはなりません。

 

 

聞き手:高齢者住宅新聞社社長 網谷敏数

 

 

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