2025年8月20・27日号 終面 掲載
【注目企業名鑑リーダーインタビュー】ベネッセホールディングス代表取締役兼ベネッセスタイルケアグループ社長CEO 小林仁氏/中間HD体制に移行 HR・介護食事業拡大
ベネッセスタイルケアグループ(東京都新宿区)が新規開設と周辺事業の拡大に力を入れている。新設ペースを加速しつつ、周辺事業では冷凍介護食の外販や介護人材採用プラットフォーム構想など、人材確保と現場支援を両輪とする取り組みが進む。ベネッセホールディングス代表取締役兼ベネッセスタイルケアグループ代表取締役社長CEOの小林仁氏に、現状と展望について聞いた。

ベネッセホールディングス代表取締役兼ベネッセスタイルケアグループ社長CEO小林仁氏
新エリア開拓、地方へ中価格帯 新採用サービスで人材確保
――物価高、建設費高騰の中で、新規ホームの開設を加速させています。ブランド・エリア戦略について聞かせてください
小林 当社はかつて年間20棟ほど新設していましたが、コロナ禍より年間10棟ほどに抑えていました。今年度は11棟を開設予定で、数年後には年間16〜17棟程度にしていく方針です。東京・大阪・名古屋など大都市圏が中心ですが、盛岡・金沢・広島・熊本、そして新潟といった新規エリアにも広げています。都市部は需要が多い一方で供給過多になることも考えられるため、「アリア」「グランダ」など高価格帯を都市部に、「ボンセジュール」「まどか」「ここち」など中価格帯を地方に配置し、安定した運営を重視します。
なお、現在の平均入居率は95%で、期末には96%を目指しています。

5月に盛岡市で開設した「リハビリホームボンセジュール菜園」(71室)外観。入居金なしで月額利用料 32万9400円~(税込)
――周辺事業への注力度も増しています
小林 給食事業では、2014年にLEOCと合弁で「ベネッセパレット」を設立し、冷凍介護食を社内で導入してきました。特に「ここち」シリーズでは8年間提供してきた実績があります。調理人員不足が深刻化する中、今年から「Neoきざみ食」の外販も本格化し、自社工場では来年度末までに1日3万食の製造体制を整える計画です。
人材領域では、グループ会社であるベネッセキャリオスでスポットワークマッチングサービス「キャリオス1DAY」を展開しています。サービス導入先となる事業者に対して、施設運営のノウハウを活かしたスポットワーク業務の切り出しの支援を行い、導入方法を一緒に考えていきます。また、1200万人を超える登録者(25年6月時点)を持つメルカリの「メルカリハロ」との連携によって、介護人材不足の社会課題解決に取り組んでいます。
ベネッセキャリオスでは現在、新たに「職場を試してから転職できる仕組み」を開発中です。これは、実際に一度働いて、職場の雰囲気を知った上で転職先を決められるサービスです。介護事業者側にとっては従来のような事前面談を省略でき、紹介手数料も相場の半額程度に抑えられます。中小規模事業者での中途採用の新しいあり方としての提案や、総合的なHRのプラットフォームを構築していければと考えています。介護事業者にはスポットワークだけでは解決できない課題もあるため、長期的にキャリアを築ける働き方として提示できるよう進めていきます。
――サービスの質を維持するため、現場ではどのような取り組みをしていますか
小林 当グループには「マジ神」と呼ばれる介護の匠がいます。専門知識と経験をもとに難しい介護課題を解決できるスタッフとして社内資格で認定されたマジ神の知見を、AIで共有するのが「マジ神AI」です。認知症ケアにおけるBPSDの要因を予測し、睡眠センサーや排泄データの情報を可視化することで、若手職員でも迷わず適切なケアを行えるようにしています。なお、マジ神認定制度の認定者は現在約400名。28年度には2000名まで拡大する計画です。
ほかにも、テクノロジー活用を進めながら業務改革にもチャレンジしています。業務の仕分けを進め、シフト数の適正化をしながらも質の高いサービスを維持できれば、処遇改善に繋げることもできるのではと考えます。
――昨年ファンドが参画し、上場も廃止しました。介護を担うベネッセスタイルケアをホールディング体制に移行した狙いと、今後の方向性について教えてください
小林 教育事業と介護事業ではフェーズが大きく異なる中で、今後この2つの事業をそれぞれ伸ばしていくために、介護・保育領域における中間HD体制をスタートしました。
新たな体制整備の狙いは、老人ホーム、保育、配食、人材などの各事業を横並びに配置し、それぞれに社長を置いて自立した経営と成長を進めることです。以前はベネッセスタイルケアの下に配食・介護食や人材といった機能子会社を抱える形でしたが、中間HDをつくり経営を自立させることで、各社が独自に戦略を描けるようにしました。
介護食事業、介護HR事業といった周辺事業の新しい取り組みとともに、介護・保育事業はこれまでの延長線上にない成長に向けて、挑戦を続けていきたいと考えています。