2026年7月8日号  15面 掲載

勿忘草の咲く町で/評:浅川澄一氏

2026年7月11日

夏川草介著 角川文庫 990円(税込)

 

 

勿忘草の咲く町で

 

医療テレビドラマ「勿忘草の咲く町で」が6月28日からNHKBSで始まった。毎週日曜の夜、全8回の放映となる。

 

異色の筋立てである。難病や手術などを焦点に、医師や看護師が熱心に「治療」に取り組む姿や人間模様を描くのが医療ドラマの定番であった。ドラマとしての盛り上がりが欠かせないからだ。

 

ところが、本作は日本の今の「普通」の病院の日常的な光景をそのまま描く。即ち患者の大半は高齢者。従って終末期対応が焦点となる。「延命か看取りか」という現場のタブーへ切り込んだ。

 

28日の第1回でも、「胃ろうは付けません。無駄な治療をしないのが私の方針です」「あふれかえる多くの高齢者を医療は支えきれません。人的にも経済的にもね。枝葉は切り捨てねばならない」と言い張る谷崎医師(内藤剛志)が登場し、視聴者を驚かせる。

 

治療でなく「切り捨て」を主張する。指導医のこの言葉に、主役格の若い研修医(菅生新樹)が「その発言は危険ですね」と食ってかかる。第1回のハイライトである。

 

国のアンケート集計では、国民の多くが延命処置に否定的なのに、「治療」を続けたがる医療現場。だが、その相克はテレビドラマのテーマにはなり難い。このドラマには原作がある。「神様のカルテ」でデビューした医師の夏川草介さんの同名小説だ。

 

 

「いかに死なせるか」が課題に

 

延命処置からどのような時点で手を引くかが看取りの難しさだ。小説では、看取りに臨む谷崎医師の考え方が随所に示される。

 

「大量の寝たきり患者を抱えて過労死した若い医者がいます」「我が国の医療は山のような高齢者の重みに耐えかねて悲鳴を上げている」「倒れないためには、限られた医療資源を的確に効率よく配分しなければ」と「切り捨て論」の根拠を説く。

 

病院内の食堂で誤嚥性肺炎のため急死した患者対応でひと騒動起きるが、同医師は「寿命ですから」と断言。一方で助けられる命には全力投入する姿も描かれる。

 

寝たきり患者たちを目の前に、その延命処置をどのように考えるのか。「大量の高齢者たちをいかに生かすかではなく、いかに死なせるか」と課題を指摘する。命を巡る医療界の倫理感に疑問符を投げかけた小説。ドラマはどのように描くのか、注視したい。

 

評:ジャーナリスト 浅川澄一氏

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