2025年7月16日号 5面 掲載
【介護経営者カンファレンスセミナーレポート】地域密着×特化型戦略 中小法人の生き残り策
高齢者住宅新聞社は6月20日、「第1回介護経営者カンファレンス」を開催。介護事業者、経営層らが多数来場した。当日は3会場で計13のセミナー.シンポジウムを実施。セミナーレポートを掲載する。
SNSで新卒採用も
人口減少や人材難が深刻化する中、中小介護法人に求められるのは「他にない価値」を明確にする姿勢だ。スターコンサルティンググループ(東京都千代田区)代表の糠谷和弘氏と、山形県天童市で地域密着型の展開を進める「つるかめ」社長の伊藤順哉氏が、中小法人の生き残り策を語った。
2024年度の介護報酬改定は1.59%のプラス改定と小幅にとどまり、訪問介護ではマイナスとなるなど、事業運営はますます厳しい。糠谷氏は「中小法人ほど、自社の強みを絞り込み、特化と仕組み化によって安定した経営を図る必要がある」と述べた。
具体的には、「局地戦(地域密着)」「特化型サービス」「大規模化またはドミナント展開」の3つを柱とする戦略が有効だとした。大規模化によって採用力や教育体制の強化、管理コストの抑制が可能になり、経営の持続性が高まる。すべてに対応しようとする姿勢は逆に非効率であり、明確なサービス設計と情報発信が重要だと強調した。
伊藤氏が率いる「つるかめ」は、人口約6万人の天童市において、近いと200〜300メートルの間隔で複数拠点を展開。市内のデイサービス利用者の49.4%を占める圧倒的シェアを誇る。
この「近距離.多拠点型」戦略により、職員のヘルプ対応や異動がしやすくなり、事務体制も効率化されている。また、各施設に「軽度」「中重度」「共生型」といった明確なテーマを設けることで、社内競合を避け、ケアマネージャーからの紹介にもつなげている。天童市にとどまらず、隣接市まで約10万人規模の商圏をカバーしていくという。
サービスの特化もつるかめの特徴だ。特別養護老人ホームでは「睡眠特化」を打ち出し、大学と連携して睡眠の質を数値化.可視化。寝具やポジショニングを調整し、入居者の睡眠スコアを改善する取り組みを行う。
ADLとIADLの両軸で支援を行い、「風呂に入れるようになる」といった個別目標に沿って段階的なケアを実施。96歳の女性が農作業に復帰した事例など、利用者の目的.やりがいを重視する支援も紹介された。
人材確保の面でも多様な取り組みを進めている。勤務形態は週休3日制や10時間夜勤など、ライフスタイルに応じた選択が可能。7日間の座学研修や自社養成校による実務者研修を通じて、教育体制も整備されている。
また、副業を許可しており、社内副業も推進。旅行介助士としての活動を行う職員も在籍する。SNSによる情報発信を積極的に行い、ここ3年間の新卒採用は全員SNS経由という。薬局の展開も進めており、介護保険につながる前の「関係人口づくり」にも力を入れている。
両氏は「自社にしかできないことを徹底的に磨くべき」と語った。特に伊藤氏は「地域を丁寧に見直せば、必ず支援が届いていない『隙間』が見つかる」とし、中小法人だからこそできるフットワークの軽さを活かして、保険内外を問わず柔軟に対応していくべきだと語った。