2025年9月24日号  1面 掲載

グループホーム運営トップ15法人・各社の策 拠点網拡大にM&A

2025年9月24日

本紙サマー特大号恒例の「福祉施設・高齢者住宅定員数ランキング全国トップ500法人(※2025年6月末時点開設施設の定員情報を集計・一部修正 出所:TRデータテクノロジー)より、認知症高齢者グループホームのトップ15法人を紹介する。公募状況の変化やばらつき、建築費高騰などの影響からM&Aの活用が活発化している現状について、事業者に話を聞いた。

 

 

 

 

トップはメディカル・ケア・サービス(以下・MCS/さいたま市)を傘下に持つ学研グループ(東京都品川区)。昨年(20246月末時点)データと比較すると、11拠点・定員数207名を上乗せした。年間1015棟の開設ペースを維持し、M&Aにも積極的に取り組んでいる。

 

売却サイドに目を向けると、物価高騰による運営コスト上昇や経営者の高齢化、後継者不在といった構造的課題が深刻化。「近年は『救済型M&A』の割合が増加しており、黒字施設であっても先行きに不安を感じるオーナーからの相談が目立つ」とMCS西山宜彦執行役員は話す。

 

執行役員経営企画室長 西山宜彦氏

 

 

2位のチイグループ(同千代田区)は昨年の定員数を維持。3位の日本アメニティライフ協会(横浜市)16拠点・274名伸ばした。M&Aを活用しつつ、新規開設や障害者GHの展開と併せて拡大を進める。

 

リビングプラットフォーム(札幌市)は、事業譲受を含め8拠点上乗せし11位にランクアップしている。14位の創生会グループ(福岡市)M&Aによりエリアを拡大。同グループの創生事業団は今年7月、三菱電機ライフサービスが運営していたGH23拠点を含む介護事業を会社分割により承継し、順位を大きく上げている。

 

M&A比率の高まりは、外部環境の変化が背景にある。新設の公募数は全国的に減少傾向にあり、建築コストの高騰も相まって採算性が悪化。こうした中、既存施設の買収による拠点確保は、より効率的な成長手段として注目されている。

 

 

新規開設に注力 行政情報を収集

 

一方で、新規開発を重視するのが7位のビジュアルビジョングループ(さいたま市)5拠点・90名を上乗せし、全国に拠点を広げている。

 

同社は各行政の3カ年計画をピックアップし、ヒアリングを通して公募の前段階で確認しながら応募している。公募次第だが、年間開設目標は3カ年で5060件ほど。

 

「日本全国エリアを選ばないのが当社の強み。どの地域にも当社の事業所がある状態を目指したい」と介護部門執行役員本部長の丸山大介氏は話す。

 

 

ビジュアルビジョン介護部門執行役員本部長丸山大介氏

 

 

昨今の認知症GHを取り巻く環境としては、認知症基本法の施行や健康寿命延伸の取り組み推進、抗認知症薬の開発などの動きがある。「今後、医療との連携が大きなターニングポイントになる時が来る」と丸山氏。

 

 

障害GHとの連携医療対応もカギに

 

障害者の高齢化という課題もある。GH内における医療のニーズを見据え、障害GHの展開を同時に進める事業者も少なくない。

 

運営難に直面する中小規模の事業者が増える中、M&Aは地域の介護インフラを維持する社会的機能も果たしている。事業効率と社会的責任を両立する戦略は、今後のモデルケースとなり得る。認知症ケアの質と規模拡大の両立をどこまで実現できるか。今後の動向が注目される。

 

 

■■

 

組織体制、運営手法に強み/メディカル・ケア・サービス

MCSは、M&Aを活用した事業拡大と地域の介護インフラ維持に注力。とりわけ近年は新設におけるM&A比率が高まっており、259月期は新設12棟のうち10棟が譲受案件だった。

 

40年時点の想定人口が5万人以上の市町村を目安に、地方でも展開。同社のM&A戦略における強みは、受け皿となる組織体制と、運営ノウハウにある。エリアマネジャー、事業部、本社の3層構造を軸に、譲受施設をスムーズに自社基準へ移行。質の担保とオペレーションの標準化を両立している。

 

注目すべきは「ケアの再現性」。同社では認知症ケアを均質化・パッケージ化する手法を導入しており、早期にサービスの質を安定化させる。「売却を検討する側にとっても、サービス水準維持やスタッフの継続雇用といった安心材料となっていると感じる」と森田智行執行役員。

 

 

執行役員社長室長 森田智行氏

 

 

加えて、地域密着型のドミナント展開も同社の強み。近年では、M&Aに関する相談のうち、仲介会社を介さずに直接同社に持ち込まれるケースも増加しているという。

 

今後も地域ニーズや人材供給状況を踏まえて柔軟に展開地域を精査していく構えだ。

 

 

■■

 

障害と両輪 医療連携強化へ/リビングプラットフォーム

リビングプラットフォームは近年、新規開設と併せてM&Aによる拠点拡大を進めている。リビングプラットフォームケアほか介護子会社3社の社長を務める塩野隆氏は「介護だけでなく障害福祉も含めて地域のニーズに対応したい」と語る。

 

 

運営本部介護事業部長兼人材開発部長 塩野隆氏

 

 

現在、同社が運営する認知症GH56拠点、障害GH25拠点。認知症GHとの併設施設も複数ある。

 

ドミナント戦略の一環としてM&Aを積極的に活用している。年間開設目標では認知症・障害GH併せて新設10棟、さらに状況に応じてM&Aによる拠点増を図る。

 

M&Aに際し、かつては担当部署と運営現場の間に距離があったが、現在は交渉段階から運営ブロック長が関与する体制に変更。M&Aが完了する頃には現場とのコミュニケーションが十分に取れている状態にしておくことで、売り手側の課題解決を自然に目指せる体制になったという。

 

同社は、障害者の高齢化に伴う新たなニーズに対応する必要性を見据える。「認知機能の高い障害高齢者が増えてくるが、その受け皿がまだ少ない」とし、医療連携を強化した「メディカルプラットフォーム」の構築に着手している。「高齢と障害、どちらにも対応できる体制をつくることで、地域にしっかり受け入れられる存在になっていきたい」

 

 

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