全34施設・1800室に同一見守りシステム導入 夜間の定時巡視廃止、アセスメントにデータ活用も

2023年2月15日

 

 

 

 

ソニー・ライフケアグループのプラウドライフ(川崎市)は、より高品質なケアの実現を目指し、現場スタッフ及び入居者双方の環境構築のためのDX化に注力。1月、生産性向上、データ利活用を目的に、同社が運営する有料老人ホーム全34ホーム・全居室1809室において、エコナビスタ(東京都千代田区)の見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」の導入が完了した。見守りシステムの運用、介護DXについて、プラウドライフの峰山正樹取締役とエコナビスタの渡邉君人社長に話を聞いた。

 

 

――見守りシステム導入の背景は。

峰山 介護保険サービスを支える社会保障制度を持続させることの難易度は高い。サービス提供方法や人材確保に課題があると考えている。当社のビジョンは「人に寄り添う力とテクノロジーの力で、一人ひとりの安心とその方らしい人生を支える介護事業者になる」だ。介護現場の労働力不足が今後ますます進む中、テクノロジーの活用によって、介護に従事するスタッフや入居者にとって真に理想といえる環境の創出を目指し、2019年以降の新設ホームに順次導入、効果検証の上、運営する全拠点・全居室への「ライフリズムナビ+Dr.」の導入を決断した。

 

渡邉 ライフリズムナビは、社会福祉法人、民間介護事業者に広く利用されており、中でも夜間巡視の負担軽減では即効性を持って効果が出ている。その後は、生産性向上、事故予防、排泄支援など施設が改善する軸によって運用が変わってくる。改善するポイントを組織で検討し、運用方法を現場に落とし込んでいくためには、職員がリテラシー向上に向けて足並みを揃えていく必要がある。

 

 

――見守りシステムの導入状況について。

峰山 19年12月に開設した介護付きホーム「はなことばプラス練馬中村」への導入を皮切りに、その後の新設拠点に順次導入を進めながら、エコナビスタとともに行った現場レベルでの効果検証を踏まえて21年春に既存拠点への導入を決め、今年1月には運営する全34ホーム・1,809室に導入が完了した。先行導入拠点での活用の取り組みを水平展開し、今後は全社レベルでの実務運用フェーズに入っていく。

 

 

ライフリズムナビ®+Dr.公式サイトはこちら
https://info.liferhythmnavi.com/

 

 

――導入時に工夫したことは。

峰山 当初は、センサーマットのような使い方で走り出してしまった結果、処理しきれないアラートの発報に現場が混乱した。その教訓から、高性能なセンサーにより全ての入居者の生活動態をミクロに把握するという理解を改め、ご入居者それぞれにリスク評価を実施し、リスクの高い行動にフォーカスしたアラート設定を行うという運用の適正化を図った。それにより、これまで見えなかったリスクの把握とともに、限りある貴重なスタッフリソースの効果的なアロケーションが可能になった。あわせて、上からの押しつけではなくスタッフ一人ひとりが主体的に取り組めるよう、見守りシステムやそれにより生み出される時間を活用した「実践したい介護」に関するアンケート調査を、全スタッフを対象に実施、出された意見も参考に目標を設定して推進するなど、現場一体での活用の取り組みを進めた。

 

渡邉 メーカーを交えたチームカンファレンスに力を入れていきたいという要望があった。カンファレンス時に現場のホーム長などからも、考え方をフィードバックしてもらった。現場スタッフに主体性があり、本社と現場が連携して進めているため、ホーム長やリーダーも一体となり共通の目的意識をもった組織として取り組むことができた。また、全ホームとオンラインでチャットを通じてつながっているため、リアルタイムで質問に答えている。

 

峰山 小さな成功体験を積み重ねることで、分かりやすい効果が表れることがモチベーション向上につながり、オペレーション品質が高まる。本社と現場が一体となり連携して進めていくことが大切だと思う。ホームの運営を所管する本社事業部内に「DX推進室」という組織を設置し、現場と本社のスタッフが同じ土俵で、現場での取り組み状況や課題への対応、さらなる活性化に向けた推進など、一体となって取り組みをサポートしている。

 

 

――見守りシステムの導入時にセンシング活用のロードマップを作成した。

峰山 取り組むべきことを明確にしたロードマップは、弊社の事業計画にも織り込まれている。その大きな事業の方向性を現場のホーム長クラスまで共有して取り組みを進めている。ロードマップにおける最初の大きな目標は、ライフリズムナビの活用による夜間帯の定時巡視廃止である。「決まった時間」ではなく「必要なタイミング」に、介護サービスの質的な変化を起こす。そして、業務全体の効率化と居室内のリスクの可視化による先回り介護で、ケア品質の向上を目指す。

 

現在日中帯に行っている比較的軽い業務を夜間帯に移すことで、日中帯に入居者と関わる時間を増やすこともできる。また今後は並行して、センシングデータのアセスメントでの活用にも着手する。転倒などの事故の検証では、先回り介護の実現による重大インシデントの減少が確認できている。スタッフや入居者から本来求められている、より専門性の高い業務への質的転換が起こりつつある。看取り品質の向上やポリファーマシー対応などにもデータを活用していきたい。

 

渡邉 ロードマップは経営ビジョンの根幹になるものだ。IT、IoT、データ解析のエッセンスが加わっているところに、プラウドライフのオリジナル性を感じる。データ利活用の一助をライフリズムナビが担っている。共に歩むべき未来の介護施設の形や利用者に寄り添うことに寄与していきたい。

 

ロードマップで取り組むことを明確にした

 

ライフリズムナビ®+Dr.公式サイトはこちら
https://info.liferhythmnavi.com/

 

 

 

――介護DXについての考え方は。

峰山 どのような優れたツールであっても導入するだけでは使いこなすことができない。目的と手段が大事。最優先事項としたのが「スタッフの職場環境整備」と「サービス品質の向上」だった。介護現場で従事するスタッフは皆、志も高く、技術や知識はもちろんのこと、専門性も高いが、介護現場には、単純作業から専門性が高い業務、事務や清掃に至る大半の業務をこれらスタッフに頼っている現状がある。介護DXを通じて、貴重なスタッフが本来担うべき業務に注力できる環境を整備することが、介護サービスの品質向上、そしてスタッフの定着にもつながると確信しており、そのタイミングが来ていると感じる。

 

 

――介護DXの中で見守りシステムの位置づけは。

峰山 ライフリズムナビは業務効率化と品質改善に欠かせない中核のソリューションと位置付けている。さらなる活用に取り組んでいきたい。

 

渡邉 他業種ではDX化によりパソコンと向き合う機会が増えるが、介護業界は生産性が向上した結果、利用者に向き合うことができる。また、データ活用は新しい領域になるため、現場で成功体験を積み重ねて事例を作っていく必要がある。ソフト側は人工知能によるアシスト機能により、気づきを創出させる。これらを合わせることが次の見守りシステムに求められる機能になるだろう。メーカーは成功体験、ノウハウをAIが対応できるようにする必要がある。

 

峰山 システムによりデータは蓄積されるが、考察しなければ何も変わらない。例えば事故について、リスクの高い入居者を抽出し、生活実態のデータを見ながら、チームでアセスメントする。システムやデータの利活用が、知見豊かな現場スタッフに「気づき」の材料を提供することで、スタッフたちによるアセスメントの品質やチームケアのアプローチが変わり、ケアの質を本質的な向上につなげることができる。今後は、「気づき」の見える化など、AIの活用にも期待している。

 

 

――活用に向けた今後の課題は。

峰山 初めての導入から約3年経過したが、導入ホームのスタッフたちの努力により、着実に活用が進んできた。ホームでは日々小さな成功体験が積み上げられており、スタッフや入居者が期待する環境に一歩一歩近づいていると思う。今後も、現場や本社のスタッフたちの意見を聞きながら、会社として進むべき大きな方向性をしっかりと示していきたい。

 

渡邉 いかに成功事例を横展開していくかが課題になる。当社のカスタマーサクセス部が密に連絡を取りながら事例を共有していきたい。そして職員が経験に関わらず同じレベルでサービスを提供できる環境構築に寄与したい。

 

 

――介護DXを推進させるために鍵となることとは。

峰山 介護現場は事業所ごとに環境が異なるため、メーカーは事業者ごとの課題解決をサポートすることに大変な苦労があると思う。現場が活用できる成功のフォーマットをいくつか作り出せれば、活用・導入する事業者は自然と広がっていくだろう。

 

渡邉 メーカーは製品をリリースすると、導入している施設のために運用し続ける責任がある。5年10年使い続けてもらうことを考えながら開発を続けることが、見守りシステムを提供するメーカーの責務だと思う。介護ロボットは創成期と言えるため多くのメーカーが製品をリリースしているが、今後どのように展開にしていくかがポイントになるだろう。

 

 

 

 

――今後については。

渡邉 この規模で全居室に見守りシステムを導入している施設は、民間事業者ではソニー・ライフケアグループが初になる。先行的な取り組みを行っていくことで介護DXのベンチマークになるだろう。DXの取組みは各社一定のレベルまで達すると、その先の運用に苦戦しているため、グループで構築したノウハウを業界のために活かして欲しい。

 

峰山 事業者として、DXの投資は回収しなければならない。DXで構築する介護サービスの新しいカタチを、効率化、仕組み化して、成功のフォーマットに落とし込んでいきたい。現場の収益性が高まれば再投資もできる。現場に重きを置いて、質を追求していきたい。

 

渡邉 「組織を変えたい」「介護の生産性を向上したい」と考えているのであれば、現場の考えにウエイトを置くべき。本部と現場が方向性を確認し合いながら、志を共にしてくれている事業者と協業することが、日本の社会的な課題解決につながると思う。

 

【ライフリズムナビ®+Dr.問い合わせフォーム】
ライフリズムナビ®+Dr.に関する問い合わせは下記フォームよりご連絡ください。
▶問い合わせフォームはこちら
 https://info.liferhythmnavi.com/inquiry/
▶ライフリズムナビ®+Dr.公式サイトはこちら
 https://info.liferhythmnavi.com/
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