【上海福祉の今】ゼロコロナ政策下の介護現場/王青氏
施設封鎖で負のループ
中国政府が厳しい「ゼロコロナ」政策を徹底している。上海市ではオミクロン株の感染拡大により3月末からロックダウンが実施されており、現時点(5月8日)では、一部の地域を除き未だ解除されていない。
この期間、交通機関や物流が停止しているため、食料や日用品の調達が非常に難しくなっている。1ヵ月以上経った今、介護施設の窮状が徐々に明らかになってきた。
介護施設は完全に封鎖されているため、家族の面会はもちろん、人の出入りが禁止されている。また、上海ではPCR検査で陽性が出た場合、症状の有無にかかわらず、隔離施設に送られる。感染者が増えるにつれ、体育館や展示場などが仮設隔離施設となった。
これらの施設は療養用であり、医療機能がないため、ここで高齢者が死亡したケースもあった。収容状況により、高齢者を受け入れられない事態も発生した。その場合は介護施設内で隔離部屋を用意しなければならなかった。
ロックダウン下では、多くの医療機関が外来を中止しているため、十分な受診・治療ができない。介護施設は医療機関と提携しているため、入居者は何とか受診はできているが、介護スタッフの付き添いと退院の際には、14日間の隔離期間が義務付けられている。多くの介護施設では、平常時でさえ介護スタッフの人手が不足しているうえ、さらに隔離部屋を確保しなければならず、現場は非常に厳しい状況に陥っている。
あるボランティア団体が約200施設に電話調査したところ、ほとんどの施設で物資が不足しているという。入居者用の消耗品、衛生用品、女性介護スタッフの生理用品などである。物流コストが10倍以上高騰しているため、おむつもとてつもない価格まであがっている。寝たきりの入居者の割合が高い施設では、おむつの消耗が早いため、早急な物資調達が求められている。
介護スタッフのメンタルも深刻な問題となっているという。施設が封鎖されているため、1ヵ月以上施設内に寝泊りしている。もともと施設内にスタッフ用の宿舎があるというものの、日常業務をこなす上に、コロナ対策でスタッフは毎日神経をすり減らしている。長らく家族に会えない入居者はもちろん、入居者の家族へのフォローも欠かせない。オンラインで会話していると、家族の苛立ちの矛先がスタッフに向かうこともあるという。
スタッフが感染した場合は隔離されるため、他のスタッフの業務量が増加する。まさに負のループである。ある介護事業者の経営者が「スタッフも生身の人間だ、既に限界に達している」と嘆いていた。
次回もゼロコロナ政策下の状況を紹介する。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。