カスハラ対策はなぜ進まないのか?/安全な介護 山田滋氏

2023年3月23日

 

 

お客様は神様ではない

 

感染対策によって家族の面会が減ったことで、家族から職員に対するカスタマーハラスメント(以下/カスハラ)は一時的に鎮静化していましたが、昨年から感染者数が減少して面会が増えるたびに、面会規制のストレスを抱えた家族からのハラスメントが増えてきました。ところが、現場では相変わらず理不尽な要求を暴力的・威圧的な手段で押し通すハラスメント行為者に対する対抗措置が全くできていません。

 

メンタルを患って失職する職員が出ているのに、なぜ介護事業経営者は手を拱いているのでしょうか?介護業界のカスハラ対策について考えます。

 

 

 

■政府は助けてくれないカスハラ対策

ハラスメントによる労働者の被害が社会問題になってから長い時間が経ち、ハラスメントの種類は数えきれないほどに増えて、経営者の意識も大きく変わりました。セクハラ防止法(改正男女雇用機会均等法)やパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行によって、事業者はその防止措置を法律で義務付けられ、経営者も厚労省のマニュアル通りに対策を進めることができました。

 

ところが、カスハラは消費者から従業員に対する攻撃行為ですから、企業内で規制することができず、防止法を制定することも不可能です。2018年に厚労省はセクハラ対策の方針として「消費者への啓蒙」を掲げましたがナンセンスです。消費者教育によって悪質クレーマーの行為が是正できる訳がありません。

 

カスハラ対策は、経営者自らが対策を考え、具体的な対抗手段を講じていかなければ、誰も助けてくれません。放置するとどうなるでしょうか?

 

 

現場におけるカスハラへの対抗策

たった一人の傍若無人な家族のハラスメントによって被害を被り、私に相談してくる管理者や経営者が何人もいます。ほとんどのケースが次のような経過で悪化していることが分かります。

 

・「毎日入浴させろ」「30分おきに体位変換しろ」など理不尽で身勝手な要求をしてくる・拒否すると脅迫的手段に訴え要求を押し付けてくる
・「利用者一人くらいなら」と仕方なく要求を受け入れてしまう
・要求はエスカレートして増長し、職員に対し暴力的・威圧的態度に出る
・メンタルの被害などが出ても対抗しない管理者に業を煮やして職員が辞めてしまう

 

ひどいケースでは、主任・相談員・看護師が一斉に退職して、他の法人に移った例もあります。このような、増長して手が付けられなくなったクレーマー家族に対して、対抗手段は一つです。

 

 

○理不尽で身勝手な要求は毅然と拒否し、ハラスメント行為に対しては法的対抗措置を示して是正を要求する

 

しかし、一旦管理者が受け入れてしまった理不尽な要求を撤回するのは困難ですし、どのように是正を要求したら良いのでしょうか?私たちは、経営者と一緒になって解決まで対応するのですが、かなり大きな労力が必要です。

 

 

 

カスハラへの対抗措置の実情

最後に対抗措置の手順をご紹介します。

 

・相手の要求を拒否するー合理的根拠を示して拒否を検討する
・カスハラ行為を詳細に検証し、次の4つに分けて対抗措置を検討する
①犯罪などの違法行為
②賠償責任が発生する不法行為
③債務不履行となる契約違反行為
④労働契約法の労働環境整備義務(※)として事業者の是正対応が必要な行為
・法人本部「お客様相談室室長」の名前で、要求拒否とハラスメント行為是正要求の通知書面を内容証明郵便で送付する
・理不尽な要求とハラスメントが是正されなければ、法的対抗措置を執る

 

※労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

 

 

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など

 

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