2026年7月1日号 8面 掲載
自殺による損害の回収方法/弁護士 家永勲氏

自殺が発生した際の貸主の対応 同居人たる賃借人に損害賠償請求できるか
賃貸人は、賃貸物件内で自殺が起きた場合、汚れた貸室の原状回復費用や、賃貸し得ない期間の賃料相当額、低額でしか賃貸し得ない場合の賃料減額分など、さまざまな損害を負うことになります。
これらの損害については、賃貸人が自殺した者の相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが、損害回収手段の一案として考えられます(民法896条、709条)。もっとも、この場合は賃貸人が、自殺した者の相続人を調査しなければならず、また、損害全額を回収するには相続人全員への請求が必要となる可能性があるため、手続きが煩雑になることが予想されます。
そこで、賃貸人としては、こうした手続きの煩雑さを回避したうえで損害を回復するため、自殺した者と同居していた賃借人に対し、損害賠償請求することは可能かという点が問題になります。
この点、地裁判決は、賃貸人が、賃借人と同居していた妻の自殺を理由に、賃借人へ損害賠償請求をした事案に関し、賃貸人の損害賠償請求を認める旨を判示しています(東京地裁平成26年8月5日判決)。
具体的には、この判決は、賃借人が賃貸借契約上の義務として、居住者が建物内で自殺をするような事態が生じないよう配慮しなければならない旨を明示しています。すなわち、賃借人は、賃貸物件内にて同居人が自殺しないよう配慮すべき賃貸借契約上の義務を負っているのであるから、この義務を怠り同居人が自殺した場合には、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります(民法415条1項本文)。
この判決では、賃借人の同居人の死亡後1年間は相当賃料額が、その後2年間は相当賃料額の2分の1が、賃借人の債務不履行によって生じた損害額(逸失利益)として認められています(死亡後1年間は賃貸不能の期間、その後2年間は賃料減額せざるを得ない期間と判断されています)。
もっとも、このような逸失利益は、通常人が自殺のあった貸室に嫌悪感を抱くという心理的事情に起因して生じるものであるところ、当該事情は一定の時の経過や、新たな賃借人の居住の事実によって希釈されるため、賃貸人はどれくらいの期間にわたって損害が生じると見込まれるか慎重に判断しつつ、賃借人に損害賠償を求めることが望ましいでしょう。

弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士
家永勲氏
【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。








