2026年8月19日号  22面 掲載

【座談会 人口減少地の介護経営①】地域インフラ支える企業体に

2026年8月19日

 

 

 

特定地域サービスの創設など、国は地方・過疎地での介護経営の厳しさに焦点を当て始めたが、制度に追従するだけでは遅れをとる。地域全体に視野を広げ、変化に先んじた事業モデルをつくり働きかけていく姿勢が事業者には求められている。「地方だからこそ価値ある事業を生み出せる」と、来るべき未来に向け着々と準備を進めている経営者はいる。東北、北陸、四国それぞれで事業を行う、ぱんぷきん(宮城県石巻市)渡邊智仁社長、医療法人社団オレンジ(福井県福井市)・社会福祉法人勝山福祉会(同勝山市)の紅谷浩之理事長、あらたケアサービス(高知県四万十市)荒川泰士社長に、これからの介護経営について議論してもらった。

 

 

 

 

――人口減少地域では、介護事業者が担う役割が都市部とは異なるかと思います。まずは事業概要を教えてください

渡邊 東日本大震災後、生産年齢人口の流出や高齢者人口の増加、地域コミュニティの衰退といった石巻市の状況を目のあたりにして「これが10年後日本各地で見られる姿だ」と痛感しました。要介護高齢者の在宅支援にとどまらず「地域の生活インフラを支える企業体」へと事業の再編を進めています。当社の介護サービスの祖業である訪問入浴をはじめ、訪問介護、デイサービスのほか、小規模多機能型居宅介護やグループホーム、定期巡回サービスなど地域密着型サービスを拡充してきました。近年は、8050問題への対策として障害グループホーム事業に挑戦しています。

 

 

 

ぱんぷきん 渡邊 智仁 社長
1996年に宮城県石巻市で創業。在宅系のほか施設系サービスや総合事業、居住支援など多角的に事業を展開。東日本大震災被災後はヘルパー人材確保にも取り組んだ。一般社団法人全国介護事業者協議会(民介協)副理事長(東北地区担当)

 

 

枠組み超えた〝多様化〟へ「制度内で課題解決」限界

 

創業が飲食業だったこともあり、配食サービスやタクシーなど保険外サービスを提供してきた強みがあります。そこから、地元の小売業者と連携した日用品販売やクリーニング店と連携したリネンレンタルサービスなどを展開し、切れ目ない在宅支援体制を意識して構築してきました。加えて、NPO法人では居住支援法人を取得し、身寄りのない高齢者の住まいに係るサポートも開始しています。

 

紅谷 へき地医療から医師としてのキャリアをスタートし、2021年に人口減少が続く福井県勝山市でクリニックを開業。「へき地で1人で医療をやっても潰れるだけだ」と指摘を受けたりしましたが、「ここで医療を行うことで何かを残せるはずだ」と思いました。その後、嘱託医を務めていた特別養護老人ホームの運営主体である社会福祉法人勝山福祉会から経営に関わってほしいと打診があり、理事長を務めています。

 

荒川 人口約3万人の高知県四万十市で、訪問介護や居宅介護支援事業所を運営し22年となりました。4年前には有料老人ホームを取得し運営しています。同時に、高知県ホームヘルパー連絡協議会という職能団体の会長として、県内のヘルパー事業を存続させるため活動しています。高知県は人口減少率、高齢化率ともに全国トップクラスです。加えて、中山間地が非常に多いため訪問介護事業がどんどん閉鎖していく中、新たな人材の流入が起こるようさまざまな試みを行っています。

 

――紅谷さんは医療と介護を一体で展開している立場です。事業において意識している点はありますか

紅谷 地域では「暮らしがあって、その上に医療がある」という視点が非常に重要です。医師だけが努力しても地域を支えることはできず、介護・福祉のチームと一体となって取り組むことが不可欠です。医師不足の今、逆にこうした視点から地域づくりができるチャンスとも捉えています。

 

――皆さんは今一番どのようなところに危機感を感じ、事業を行っていますか

紅谷 経営を引き受けた勝山福祉会は40年以上高齢者福祉一筋でしたが、それも限界を迎えていると感じています。ケアマネジャーが1人辞職した際、現場スタッフに新しいスタッフを募集するか聞いてみると「高齢者が減っていくこの場所で、増やしても意味がない」と淡々と言われました。自分が関わる産業はしぼんでいくのに、目の前の仕事は忙しい――何とも言えない絶望感を感じたことを覚えています。

 

その後、法人で運営する訪問介護の基準が満たせず行政には閉鎖を求められ、なんとか市内の介護事業を存続させようと奮闘する中で、既存の介護保険制度にしがみつく社福の運営体制を不毛に思うようになりました。

 

そこから私たちが目指し始めたのが「多様化」です。子どもや障害者、外国人、一般家庭など住民全てを対象に事業を展開する。渡邊さん、荒川さんとも共通していることかと思います。最近は自費の生活支援サービスも開始しました。社福で行うのは難しいのですが、勝山市にとってこれは「公益事業」とだと説得し実現。社福としては初めてだそうです。

 

現在構想中なのが、制度上の小多機とは異なる「地域の小規模多機能化」です。具体的には、オンライン診療、往診、小規模な介護事業所、生活支援サービスの事務所、無人販売所、配達事業者など、地域生活に必要な機能を組み合わせたワンストップ型の拠点を、人口1000人規模の集落ごとに整備するようなイメージです。

 

また、高齢者のシェアハウスをつくれないか検討しています。能登半島地震の際に、約200キロメートル離れた地域から避難してきた高齢者をシェアハウスで支援した経験があり、運営できそうだと手応えを得ました。高齢者が市内で暮らしていける地域をつくれば、住民が納めた介護保険料が給付として市外に流れることも防げるのではないかと思っています。

 

 

 

地域別報酬、変化の契機

 

 

荒川 ヘルパー不足の事業所が多い中、閉鎖が続く切迫した状況を変えたいと活動を続けてきました。5年ほど前から業界団体として県の委託を受け、高校生にアルバイトとして働いてもらう「高校生ヘルパー育成事業」を推進しています。

 

ヘルパーは電気や水道と同じようにまさにインフラの1つ。高知県の現状を伝えながら訪問介護の魅力を伝えていたら、徐々に興味を持つ学生たちが出てきてくれ、高校生向けの介護職員初任者研修も始めました。学生は放課後に数件同行訪問します。「お金を自分で稼げる」というやりがいで働いてくれる子が増えています。この取り組みには、将来こうした学生たちが異業種で就職したとしても、副業としてヘルパーを行ってほしいという狙いがあります。

 

移住者にもアプローチし、民泊や飲食業、農業などと両立しながら隙間時間にヘルパーとして働ける仕組みづくりも始めました。移住者の方が地域に対する思いが強いケースもあるため、初任者研修を受けてくれる人も出てきています。「スキマバイト」のような形で普及できればと思っています。

 

渡邊 私たちの地域でも、人手不足への対策は大きな課題の1つです。特に訪問介護事業の存続を目的に、総合事業の担い手育成に力を入れています。住民主体型の訪問サービスであれば無資格未経験でも行えるため、シニアや子育て中の人などに向けて研修事業を行っています。将来的には、実務者研修などを経て高度な介護人材育成につなげていきたいところです。

 

 

【特集②へ続く】

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