2026年8月19日号  31面 掲載

【特別寄稿 ニッセイ基礎研究所/三原岳 主席研究員】新たな地域医療構想は介護業界に何をもたらすのか ~一層、問われる在宅での医療連携、高齢者救急への対応~

2026年8月20日

生産年齢人口の激減など人口動態が大きく変わる「2040年」に向けた介護・医療改革の検討が政府内で本格化している。このうち、介護に関しては、26年6月に改正社会福祉法等が成立し、中山間・人口減少地域における事業者向け支援策などが具体化する見通しだ。一方、医療でも昨年12月に改正医療法等が成立し、40年を視野に入れた「新たな地域医療構想」(以下、新地域医療構想)が始動しようとしている。

 

新地域医療構想では、従来の病床再編だけでなく、外来や在宅、介護との連携が明確に意識されることになっており、介護業界も決して無縁ではいられない。しかも、新地域医療構想を理解しようとすると、地域医療構想の到達点や課題など、これまでの政策の流れも踏まえる必要がある。本稿では、地域医療構想を巡る経緯や新地域医療構想の概要を整理した上で、「在宅での医療連携」「高齢者救急への対応」の2点に関して、介護業界への影響を検討する。

 

 

ニッセイ基礎研究所 三原岳 主席研究員

 

<9月16日 第3回 介護経営者カンファレンス [C会場-4]14:30~15:30> 

「2040年を見据えた次期介護報酬改定の論点を考える」

~医療・介護関連法の改正から見える今後の方向性~

 

ニッセイ基礎研究所 三原岳 主席研究員

 

主催:高齢者住宅新聞

 

◇ 地域医療構想とは何か?

まず、これまでの地域医療構想を説明する。地域医療構想とは2017年3月までに都道府県が作成した文書を指す。具体的には、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる25年をターゲットに、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分しつつ、都道府県が医療需

要を病床数で推計。さらに、医療機関が担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにした。

 

その結果、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解された。

 

しかし、国や都道府県は民間医療機関に対し、病床転換などを命令できないため、都道府県を中心とする地域での協議を通じて、医療提供体制を再構築することが重視された。さらに、地域での協議だけでは議論が進展しないため、厚生労働省は診療報酬や介護報酬の改定に際して、地域医療構想を進める方向での見直しを講じた。例えば、急性期病床の適正化を図るため、高齢者の軽度急性期患者を受け入れる「地域包括医療病棟」を24年度改定で創設した。

 

それでも急性期や高度急性期が依然として多いなど、病床のアンバランスが解消されていない上、25年の目標年次が到来したため、厚労省は40年を見据えた新地域医療構想の議論を本格化させようとしている。具体的には、新地域医療構想の制度化などを盛り込んだ改

正医療法が25年臨時国会で成立し、これに基づくガイドラインも26年7月に公表され、都道府県による策定作業が本格化する。

 

 

◇ 問われる都道府県の対応

ここでポイントとなるのは都道府県の対応である。新地域医療構想では、在宅医療の充実が明確に意識された。この結果、都道府県としては、介護行政を司る市町村や介護事業所との連携強化が不可欠となった。

 

だが、都道府県は従来、介護行政と接点を持っておらず、どこまで連携が図れるか、予断を許さない。さらに、介護行政は市町村単位で展開されているのに対し、新地域医療構想は複数の市町村で構成する2次医療圏をベースに検討が進むため、都道府県は新地域医療構想を検討する際、「医療は2 次医療圏で検討」「介護は市町村で協議」といった形で、キメ細かい対応が求められる。

 

 

◇介護との関係は?

では、新地域医療構想は介護業界に対し、どんな影響を及ぼすのか。まず、在宅での医療連携が一層、求められる点である。これまでも在宅ケアでは医療・介護連携の必要性が強調されており、新地域医療構想でも在宅医療の充実が明確に意識された。特に、新地域医療構想がターゲットに据えている40年をイメージすると、独居世帯の認知症高齢者など複雑・困難ケースが増加する。このため、新地域医療構想の推進では医療機関と介護事業所の情報共有が一層、求められることになる。

 

さらに、高齢者救急への対応も論点となる。新地域医療構想のゴールである40年には、誤嚥性肺炎など高齢者の軽度急性期患者が増加する可能性があるため、新地域医療構想ではリハビリを提供する回復期の代わりに、「包括期」というカテゴリーが創設された。具体的には、従来の回復期機能だけでなく、入院した高齢者に対し、治療と早い段階でのリハビリ・栄養・口腔ケア、在宅復帰支援などを一体的に提供できる機能が求められるとして、名称が変更

された。

 

こうした状況の下、介護事業所は包括期の病院との連携が今まで以上に求められることになる。例えば、既述した地域包括医療病棟に加えて、早期の在宅復帰支援などを目指す「地域包括ケア病棟」を届け出ている医療機関に対し、▽入院した高齢者に関する情報を包括期の病院に提供、▽包括期の医療機関で開かれる退院時の支援会議に参加、▽高齢者の急変時の対応などで連携する「協力医療機関」の協定締結――などが必要になる。

 

当然、在宅での連携や高齢者救急に関して、2~3年に一度、実施される診療報酬や介護報酬の改定では、事業者に対する加算措置が創設されることが予想される。実際、26年度診療報酬改定では、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟について、自宅や介護施設などから高齢者の急性期患者を受け入れてもらうための加算が作られた。これは急変時の高齢者の受け入れについて、3つ以上の高齢者施設と協力医療機関の協定を締結することなどが要件となっている。

 

このほか、早期退院を支援するため、リハビリ・栄養・口腔の一体的な提供に関する加算も地域包括ケア病棟で創設された。3つの一体的な提供は21年度介護報酬改定から強く意識されているテーマであり、地域包括医療病棟でも既に組み込まれている考え方である。

 

今後、27年度介護報酬改定でも、こうした医療提供体制改革を踏まえた見直しが講じられる可能性がある。

 

しかし、こうした新地域医療構想の大きな流れを踏まえないと、加算や要件に込められた国の意図を理解できず、経営判断が短期的な改定に振り回されることになる。経営戦略を検討する際には短期的な加算取得にとらわれ過ぎず、その背景にある新地域医療構想の大きな流れを理解していただきたい。業界団体としても、医療まで含めた制度改正の情報を提供することが求められる。

 

 

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