2026年8月12日号 6面 掲載
AIで変わる介護の仕事(後編)/スターコンサルティンググループ 糠谷和弘氏

昨今の物価高に負けず、他業界と戦える給与水準にまで引き上げて、採用難を解消しなければいけません。
その原資を“節約”で賄おうとしても、たかが知れています。着目すべきは支出の額ではなく、その使い道。同じお金を、払って消える“コスト”にするのか、回収の見込める“投資”に変えるの
か。この発想の切り替えが不可欠となります。
■コスト or 投資
ある2つのデイサービスでは、囲碁が好きな利用者の相手がいないという共通の悩みがありました。利用者同士だとレベルが合わず「勝ってばかりでつまらない」「何度やっても負ける」など、なかなか長続きしません。
A施設は、送迎専門職員に週1回、1時間だけ居残りしてもらい、囲碁の相手をさせました。時給1150円、月4回で4600円の支出です。ところが、その職員は囲碁のルールこそ知っているものの経験不足。「レベルが合わない」という声は消えず、不満は解消できませんでした。
対するB施設は、AI囲碁ロボットを月7000円でレンタルしたのです。ロボットは文句を言いません。何局でも付き合うし、棋力の設定は自由自在。「今日こそ勝つ!」と言って、月に最低2回は休んでいた男性利用者2名が、休まず通うようになりました。この事例には、悩みを解決できたかどうかよりも大切な示唆があります。
「投資」ができる現場への進化
■どっちが高い?
金額だけ見れば、安いのはA施設。でも、人件費の4600円は“消えるお金”です。1年間で見ると、余計な給与を5万5200円払い続けて、残るものはゼロ。これが“コスト”です。一方、Bの70 00円。1回(日)あたりの利用単価が仮に9000円だとすると、9000円×2回×2名=月3万6000円の増収。差し引き2万9000円のプラスで、1年間なら34万8000円になります。これが“投資”です。
さらにB施設は、欠席を減らしただけでなく、囲碁ロボットをネタに「ケアマネ向けチラシ」を作成して「認知症予防効果も期待!」と訴求。結果としてケアマネ経由の男性利用者の問い合わせが増えました。このように良い“投資”は“狙った効果”だけで終わらないのです。
コストは「払って終わるお金」、投資は「払ってから始まるお金」です。現場では、この2つが混同されているケースをよく見ます。「7000円もかかるの?」と渋る施設長が、4600円の残業には何も言わない。それはその後のリターンを見ていないからです。
■明日から取り組める3つのポイント
ポイント1)「単価」を職員に理解させる
1回あたり、1ヵ月あたりの「平均利用単価」を、現場職員にしっかりと伝えましょう。その上で、支出を決める前に「新規利用者が増えた場合~」とか「欠席が減ると~」のように計算する訓練をするのです。今回の事例はデイサービスでしたが、利用回数によって金額が変わる在宅サービスはもちろん、空床がそのまま損失になる入所サービスでも、単価の理解は欠かせません。
ポイント2)購入申請には“費用対効果”欄を設ける
何らかの物品、設備を購入する際に「申請書」が必要な事業所は多いと思います。そこに「購入によって見込まれる効果」とその「根拠」を記入する欄を設けるのです。増収でも、削減できる時間や人件費でも構いません。先ほどの“訓練”がここで役に立ちます。あわせて「○月○日
に検証」と期日も書かせましょう。効果を確かめるところまでが投資です。
ポイント3)「販促」を意識する
何かを導入したら、それを販促に使えないかを考えるのです。チラシ、広報紙、ケアマネ営業のトーク、見学時の説明。そこから新規利用者の獲得や欠席減につながれば、投資の効果はさらに大きくなります。
もちろん、すべての支出が投資になるわけではありません。リターンは見込めなくても、ケア品質を良くするとか、安全性を高めるなどの重要な支出はあります。その上で意識したいのは「安くあげる」から「増やす」への発想の切り替えです。囲碁ロボットの7000円を「高い」と言うか、「安い」と言えるか。その一言で、現場の経営感覚は測れます。まずは3つのポイントから始めてみませんか。

糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。









