2026年8月12日号 15面 掲載
ユマニチュード入門/評:浅川澄一氏

ユマニチュード入門
カンヌ国際映画祭で日本人監督の『急に具合が悪くなる』が、日本人として初めて女優賞を獲得し注目された。女性研究者同士が「死」や人生を論じた往復書簡集が原作なのも話題を増幅させた。
だが、原作とは大きくかけ離れている。主要テーマは認知症ケアの「ユマニチュード」なのだ。主演の一人はパリの高齢者施設の施設長。ユマニチュードを施設内で広めようと奮闘中だが、古参スタッフから「そんなゆとりはない」と反発され悩んでいる。
そこへ、国際的な演出家の日本人女性と巡り合い、2人の会話劇が延々と始まる。ユマニチュードの有り様が語られ実践される。深夜に施設に居合わせた演出家が、高齢入居者のトイレ介助を施設長と共に飛び入りで行う。
施設長から諭されるのは、常に当事者の視界内にいること、背後に回るなど視界から消える時は事前にその必要性をきちんと伝えること。ユマニチュードの4本柱である「見る、話す、触れる、立つ」をこのケア場面で丁寧に示す。
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カンヌ受賞映画にユマニチュード
入居者たちが嬉々として足裏をもみ合う最後のシーンも4本柱の「触れる」そのものだ。
濱口竜介監督がユマニチュードにどれほどのめり込んだのかがよく分かる。ユマニチュードの共同創案者、イヴ・ジネストさんと日本で対談し、その模様がメディアでも報じられた。
監督は現地施設を取材してユマニチュードが「必ずしもうまく進んではいない」ことが分かったという。「我々の社会そのものを反映しているようで」、「直接の着想源となりました」とも打ち明ける。正直な感想だ。
ユマニチュードが日本に紹介されたのはもう10年以上前だ。認知症ケアへの関心が高まる中、厚労省主導の認知症介護研究・研修東京センター(東京)が「センター方式」を創出し、米国発の「バリデーション」も伝えられ、英国発で欧州に普及していた「パーソン・センタード・ケア」も紹介された。その中でユマニチュードは最後発。
いずれも、認知症当事者の思いを尊重し、人としての尊厳を大切にという考え方は共通だ。映画に刺激され改めてユマニチュードの「社会性」を探るには、「ユマニチュード入門」がいい。イラストをふんだんに使い、ケアの具体的な手法を丁寧に解説している。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏










