2026年10月28日号 8面 掲載
【データで検証 介護業界の常識と現実】介護職の給与は本当に低いのか

「属性」から検証する
介護職員は賃金が低いと言われていますが、これは事実でしょうか。事実だとしたら、原因は何でしょうか。
たしかに介護職員の平均賃金は、他産業に比べて劣っています。厚生労働省の『令和7年賃金構造基本統計調査』から賃金率(賞与や残業手当も含めた年間賃金を総労働時間で割った、1時間当たりの総賃金)を計算すると、1936円です。全産業平均である2587円の75%にとどまります。
しかし、これだけで介護職員の賃金が低いと結論付けることはできません。介護職員のさまざまな属性を考慮する必要があります。まず男女比率です。介護職員は65%が女性であり、このために平均賃金が低いのかもしれません。
しかし介護職員の賃金率は、女性が1853円、男性が2060円です。介護職員が全員男性になったとしても、全産業平均を下回ります。「男女比率原因説」は否定されます。
次に学歴です。『介護労働実態調査』(介護労働安定センター、2024年)によると、介護職員の大卒比率は17%で、全産業平均である39%の半分以下です。
しかし全産業ベースで、賃金率は大学卒3089円、高校卒2203円、中学卒2008円です。全産業の中学卒平均に、介護職員の平均は及びません。介護職員の賃金は、学歴水準が比較的低いことを割り引いてもなお、他産業に比べて低いといえます。「学歴原因説」も当てはまりません。
「介護は小規模企業が多いから、平均賃金が低い」という「規模原因説」も当てはまりません。介護職員の、企業規模1000人以上の企業の賃金率は1991円です。これは全産業の、企業規模10〜99人の企業の平均値である2145円をも下回ります。
「介護職員は賃金が低い地方に偏在しているから、平均賃金が低い」というわけでもありません。介護職員の賃金率は、都道府県別(全産業ベース)で最も賃金率が低い青森県と、次に低い宮崎県の間にあります。「地方原因説」が正しいとしたら、日本中の介護職員の大半が青森県で働いているはずです。これはありえません。
「介護職員は平均年齢が低いから、平均賃金が低い」という「年齢原因説」も当てはまりません。介護職員の平均年齢は45.3歳で、全産業の平均年齢である44.4歳を上回っています。
介護職員の属性のうち、統計で確認できるもので唯一、平均賃金を押し下げる方向に作用するであろうものは勤続年数です。介護職員の平均勤続年数は9.0年で、全産業の平均である12.7年の71%です。
以上のことを総合すると、介護業界が低賃金であることは、紛れもない事実であると言わざるを得ません。
なぜかくも低いのか。しばしば指摘される理由の1つは、介護サービスが公定価格であることです。しかしこの説には疑問があります。介護が公定価格であることは、職員が低賃金を甘受する理由にはならないということです。公定価格であろうが何であろうが、いやなら働かなければ済むことです。それにもかかわらず介護業界が、不足しているとはいえ一定の職員数を確保してきたのはなぜでしょうか。続きは次回考察します。

リザルト株式会社 代表 神田靖美氏
プロフィール:上智大学経済学部卒業後、証券会社や賃金制度のコンサルテイング会社などを経て、早稲田大学大学院にてMBAを取得。2009年から個人事業として人材活用のコンサルティングを開始し、11年にリザルトを設立。多種多様な業界で、賃金制度、評価制度の構築に携わる。実績は相談のみのケースを含めれば200社以上。新聞・Webメディアなどでの連載も多数。











