
死ぬまでにかかるお金を老人ホームの費用を含めて計算
老人ホーム・介護施設に入るための費用や資金を考える前に、これからの自分の生活で、死ぬまでにどれくらいのお金が必要になるのかについて知っておきましょう。
死ぬまでにかかるお金=コストについて大まかに計算
老人ホーム・介護施設への入居を考える上では、入居後、死ぬまでにかかるお金=コストについて、まずは大まかに計算し、その概要を把握しておきましょう。
現在、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性は87.14歳(2024年)です。これはあくまでも平均の寿命で、いまや100歳まで生きる人も決して珍しくありません。実際に、厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」によると、2023年に死亡した人の中でもっとも多い年齢は、男性が88歳、女性が93歳といずれも平均寿命よりおよそ6歳高くなっており、日本人の5人に3人が平均寿命よりも長生きをしています。
つまり、日本人のうち過半数の男性が87歳、女性は93歳まで寿命があるということです。そこで、少し余裕をみて夫婦共に100歳まで生きるとして、死ぬまでに必要なお金を考えてみましょう。
死ぬまでに必要なお金が夫婦で1,260万円足りない
総務省の「家計調査(2人以上の世帯)」2024年によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の1カ月の平均支出は、25万6521円となっています。一方で、厚生労働省が発表した「令和7年度の夫婦2人の老齢基礎年金を含む厚生年金の標準的な年金額は1カ月当たり22万8,372円で、毎月約3万円不足している状況がみえます。65歳から年金生活が始まると仮定すると、夫婦がともに100歳まで生きた場合、死ぬまでに必要なお金が約1,260万円が足りないことになるのです。
80歳になったときには950万円ほどの資産が必要
実際には、夫婦のいずれかが先に亡くなるでしょうし、そうなると世帯としての死ぬまでにかかるお金は前述の金額よりも減り、同様に年金収入も減額されますので、このような数字にはなりません。
しかし、大まかなイメージとして、夫婦が共に100歳まで病気や要介護状態にならず、今の自宅で平均的な暮らしをするとして、65歳時点で年金収入以外に、およそ1,260万円、80歳になったときには720万円ほどの資産が必要だということになります。しかし実際には、医療費や介護費用等がかさみ、死ぬまでに必要なお金はもっと増えるでしょう。老人ホーム・介護施設への入居を考えるなら、さらに高額な資金が必要となります。
無職世帯(2人以上)の 1カ月の平均支出(例)
<内訳>
◦食費 | 76,352 円 |
◦住居 | 16,432 円 |
◦水道光熱 | 21,919 円 |
◦家具、家事用品 | 12,265 円 |
◦被服費等 | 55,590 円 |
◦保健医療 | 18,383 円 |
◦交通・通信 | 27,768 円 |
◦教育 | 0 円 |
◦教養娯楽 | 25,377 円 |
◦その他 | 52,433 円 |
◦税金・社会保険料 | 30,333 円 |
◦合計 | 256,521 円 |
※その他には理美容、おこづかい、交際費、嗜好品、諸雑費などが含まれる。
※ 内訳は主要項目を挙げたため、内訳を足しあげても必ずしも合計とは一致しない(総務省「家計調査(2人以上の世帯)」2024年(令和6年)平均結果の概要より)
「家計調査」の住居に関する費用は?
ここまでは、夫婦が65歳から共に100歳まで生きた場合に死ぬまでにかかるお金について、平均的な世帯の支出や老齢年金を含む厚生年金の標準額を元に「65歳時点で年金収入以外に最低でも1,260万円ほどの資産が必要である」と考えました。
しかし、ここで注意していただきたいのは、上記の試算では、自宅生活での支出における住居に関する金額がとても低くなっていることです。改めて総務省の「家計調査(2人以上の世帯)」の無職世帯の部分をみると、住居に関する消費支出の合計は1万6,432円となっています。
つまりこれは、主に持ち家の世帯の支出であると考えられ、老人ホーム・介護施設での生活を考えると、かなり乖離した数字であるといえるでしょう。
老人ホームの費用シミュレーション
老人ホーム・介護施設の入居にかかる一時金や毎月の費用はさまざまであり、詳しくは「特養・老健・介護療養型医療施設・介護医療院の費用」のページで解説しますが、ひとり当たり特別養護老人ホームの場合は、入居一時金なしで第4段階なら介護費用を含めて毎月13~15万円程度の費用がかかります。
介護型の有料老人ホームであれば、基準レベルの施設の場合、月払い方式で、毎月の費用は約20万円くらいでしょう。なお、これらの高齢者施設の費用には、居住費のほかに食費、生活支援サービスなどの費用も含まれています。
80歳から老人ホームに入る場合の費用
もう一度、前記総務省の家計調査の内訳を整理すると、無職2人世帯の毎月支出総額25万6521円のうち、住まい・食費・水道光熱費を合計すると11万4,703円となります。一方で、食費や水道光熱費も含まれた特養の毎月のホテルコストは夫婦2人なら22~25万円、有料老人ホームの場合は同室だと約35万円ですから、その費用の差額は、特養の場合で11~14万円、有料老人ホームでは24万円にもなります。
こうした試算の上で、夫婦2人が80歳から老人ホーム・介護施設に入る場合と自宅で過ごす場合の費用を比較してみましょう。持ち家で施設に入らないときの「住まい・食費・水道光熱費」の合計は20年間で約2,660万円であるに対し、介護費用をのぞいて特養の場合は5,280~6,000万円、有料老人ホームは8,400万円がかかります。
すると、持ち家での暮らしの資金に対して、特養の場合+2,620~3,340万円、有料老人ホームの場合は+5,740万円の資金が、年金不足分に加えてさらに必要になるということがわかります。
ただし、この比較には介護費用は含まれていないので、実際には何歳からどこで介護生活を送るかで、金額差は大きく異なってきます。自宅生活では重度の要介護状態になると介護保険だけではまかなえなくなり、利用限度額を超えた分が10割負担となって施設での介護費用を大きく上回るケースも考えられます。資金計画はできるだけ具体的に、これからの生活を想定した上で考えることが大切です。
持ち家と施設の基準生活費の差額(夫婦 2人 80歳から 100歳まで)
1カ月・2人の生活費(住まい、食費、水道光熱費も含めた支出・費用、※介護費用は含まない)
■自宅(持ち家)
毎月:11万4,703円 20年間:約2750万円
■特別養護老人ホーム
毎月:22~25万円 20年間:約5,280~6,000万円
自宅(持ち家)との20年間の差額:約2,530~3,250万円
■介護型有料老人ホーム
毎月:35万円 20年間:約8,400万円
自宅(持ち家)との20年間の差額:約5,650万円
この試算では、介護や医療ケアを受けるためのコストが含まれていない。このため、持ち家と高齢者施設とで同様のサービスを受けた場合、実際の支出の差はもっと小さくなる。
出典:岡本弘子『高齢者施設の費用・選び方・手続きのすべて』ナツメ社
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